物語
サイバネティック未来予測研究所ではスーパーコンピューター<シミュラクロン1>がフォルマー教授によって開発されていた。それは電子空間に仮構の人工的世界を作り上げ、それを元に政治・経済・社会についての厳密な未来予測を行なうことができた。この人工的世界には人間そっくりの個体が生活していた。ただ上部世界との連絡個体だけはこの世界が単なる仮想現実であることを知っていた。
ある日、<シミュラクロン1>の開発者フォルマー教授が謎めいた状況で死んでいるのが発見され、公的には自殺と説明された。フォルマーは死の直前に研究所の同僚ラウゼに対して重大な発見をしたと伝えていた。研究所のワンマン所長ジスキンスはフォルマーの後任にフレッド・シュティラーを任命する。だがジスキンスのパーティー会場で保安課長ラウゼがシュティラーを呼び止めてフォルマーの最期の様子を伝えようとした次の瞬間、ラウゼは忽然と姿を消してしまう。シュティラーはラウゼ失踪を警察に届け、捜査を依頼するが何の手がかりも得られない。それどころかラウゼの存在は皆の記憶から消えてしまい、研究所の所員データベースにもラウゼの名前はなかった。死んだフォルマーの娘エヴァも自分の叔父に当たるはずのラウゼのことを知らないと告げる。シュティラーの見たものは幻だったのだろうか……。