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ヴェラの祈り ロゴ

解説

「元始、女性は実に太陽であった。真正(しんせい)の人であった。今、女性は月である。他によって生き、他の光によって輝き、病人のような蒼白い顔の月である」――平塚らいてう

「自分は誰のために生きているのか?」「どうして、うまく伝えられないのか?」諦めと、諦められない“何か”――。光を求めた二人の女性(おんな)の魂が向かう先とは。

2003年の長編監督デビュー作『父、帰る』がヴェネチア国際映画祭グランプリ金獅子賞を受賞したアンドレイ・ズビャギンツェフ監督。『父、帰る』は日本でも公開され、いずれの映画にも似ていない乾いた世界観が話題となりヒットを記録。ズビャギンツェフ監督は新作“Leviafan”がカンヌ国際映画祭脚本賞ほか、本年度アカデミー賞外国語映画賞のロシア代表に選出されるなど世界中から熱い視線が送られている。

『ヴェラの祈り』『エレナの惑い』の2作品は『父、帰る』の後に製作され、2作連続でカンヌ国際映画祭にて賞を受賞し高い評価を受けた。男性中心の社会で生きる女性の苦悩と孤独、そして愛を美しく繊細なタッチでスクリーンに焼きつける。『父、帰る』公開から10年、ズビャギンツェフ監督による女性映画2作品が、遂に日本のスクリーンにやってくる!

監督紹介

アンドレイ・ズビャギンツェフ
Андрей Звягинцев

1964年、ロシア、ノヴォシビルスク生まれ。地元の演劇学校卒業後、ノヴォシビルスクの劇場で仕事をする。86年モスクワに移り、ルナチャルスキー記念演劇大学演技コースを1990年に卒業。劇団には所属せず、舞台やテレビ、映画の端役やエキストラを務める日々が続く。広告業界に入り、テレビのコマーシャルをはじめ、テレビシリーズの演出を手掛ける。

2003年に『父、帰る』で劇場長編デビューを飾る。ヴェネチア国際映画祭ではソ連・ロシア映画としては『僕の村は戦場だった』(62)以来の、長編デビュー作で金獅子賞(グラン・プリ)獲得の快挙を果たした。『父、帰る』は日本や合衆国でも劇場公開され、多数の映画賞が次々と与えられた。

2007年、長編第二作『ヴェラの祈り』は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、主演のコンスタンチン・ラヴロネンコが最優秀男優賞を授与される。2008年にはオムニバス映画『ニューヨーク、アイラブユー』の1挿話として短編 «Апокрифа» を監督(劇場公開版・日本盤DVD共に削除されリリース)。翌2009年 ロシアの監督5人によるオムニバス «Эксперимент 5IVE» の1挿話 «Тайна» を監督した。

2011年に長編第3作『エレナの惑い』を完成させる。カンヌ映画祭では「ある視点」部門に出品、審査員特別賞を受賞。モスクワ国際映画祭ではズビャギンツェフ最優秀監督賞獲得。ロシア映画芸術科学アカデミー賞では主演女優賞・助演女優賞のダブル受賞の栄冠を出演女優たちにもたらした。

2014年長編第4作『裁かれるは善人のみ』を完成。カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最優秀脚本賞、ロンドン国際映画祭作品賞を獲得したほか、アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、ゴールデン・グローブ賞を受賞した。

フィルモグラフィー

  • 2003年 
    父、帰る Vozvrashschenie

    ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞 受賞
  • 2007年 
    ヴェラの祈り Izgnanie

    カンヌ国際映画祭主演男優賞 受賞
  • 2009年 
    Apocrypha (短編)
  • 2011年 
    Tayna (短編)
  • 2011年 
    エレナの惑い Elena

    カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員特別賞 受賞
  • 2014年 
    裁かれるは善人のみ Leviathan

    カンヌ国際映画祭脚本賞 受賞

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第64回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員特別賞 受賞

ストーリーStory

それは愛の不在がもたらす、妻の報い。
「明日、遺言を作成する」――。
夫のその一言が、彼女を善悪すら存在しない地へと掻き立てていく――。

モスクワ、冬。初老の資産家と再婚した元看護士のエレナは、生活感のない高級マンションで、一見裕福で何不自由のない生活を送っている。しかしその生活で夫が求めるのは、家政婦のように家事をし、求められるままにセックスをする従順な女の姿だ。そんな生活の中で、彼女は夫の顔色をうかがいながらも、唯一の自己主張のように、前の結婚でもうけた働く気のない息子家族の生活費を工面している。しかしそんな日常は、夫の急病により一変する。

「明日、遺言を作成する」――。
死期を悟った夫のその言葉と共に、彼女の「罪」の境界線がゆらいでいく。そして、彼女がとった行動とは……。
男と言う存在を「経済」にだぶらせ、それに蹂躙されたひとりの女性の業をサスペンスフルに描き出す本作は、妻という存在、あるいは母という存在とは何かを根源から問いただしていく傑作となった。アンドレイ・ズビャギンツェフ監督長編三作目にして、初めて自身のオリジナル脚本による『エレナの惑い』は、今なお男性優位主義のロシアで、一人の妻として、母として、何より女としてもがく主人公の姿を通して、魂とモラルを失いつつある現代の闇を我々の前に突きつける。

エレナを演じるのはロシアを代表する女優ナジェジダ・マルキナ。本作での演技でヨーロッパ映画祭最優秀女優賞にノミネートされるなど高い評価を受けた。
スタイリッシュなカメラワークと計算された色彩設計によって描かれる静謐な画面設計とは裏腹な、エレナの強い決意と女の業の凄味が、画面に墨を落としたように広がっていく――。

出演:ナジェジダ・マルキナ/アンドレイ・スミルノフ/アレクセイ・ロズィン/エレナ・リャドワ
脚本:アンドレイ・ズビャギンツェフ/オレグ・ネギン
音楽:フィリップ・グラス
2011年/109分/ロシア/カラー/スコープサイズ/5.1ch/DCP

キャストCast

ナジェジダ・マルキナ(エレナ役)
Надежда Маркина

1958年、ロシア、ドミトリエフスカヤ生まれ。1992年から98年まで、モスクワ・マーラヤ・ブロンナヤ劇場に所属。
21世紀に入ると映画・テレビ出演が増え、日本紹介作に『ソード・ハンド 剣の拳』(06)、『カラマーゾフの兄弟』(09)がある。本作『エレナの惑い』の演技は高く評価され、ヨーロッパ映画祭最優秀女優賞にノミネート、ロシア映画芸術科学アカデミー賞最優秀主演女優賞に輝いた

アンドレイ・スミルノフ(ウラジミル役)
Андрей Смирнов

1941年モスクワ生まれ。1970年に長編監督デビュー作『遠い日の白ロシア駅』(71)を発表。1980年代から俳優業に活動の中心を移す。現代ロシア映画界の大御所とも言える名優のひとり。日本に紹介された出演作に『パパの大好きなピエロ』(86)、『作家の妻の日記』(00)がある。2011年に32年振りとなる長編監督作『 Жила-была одна баба』を発表した。

第60回カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞(コンスタンチン・ラヴロネンコ)

ストーリーStory

「妊娠したの、でもあなたの子じゃない」。
妻は愛を確かめたかった……。
でもそれは浮遊し、いつでも孤独の姿しか見せない――。

夏を過ごすために、亡き父が遺した田舎の家を訪れたある家族。美しい景色の中で流れる静かな家族の時間は、妻ヴェラのある思いがけない告白で暗転していく。

孤独より深い海の底を見てしまった女性の、戻れない道を描いた現代の「黙示録」。妻であること、そして母であるという立場に納まりきれない感情の熱波は、やがて家族そのものを飲み込む奔流となり、悲劇を引き起こしていく……。

諦めと、そして諦められない何か――。それを身体の奥底に抱えてしまった時、ひとりの女性が見つめるのはいったい何なのか。人間の内面に徹底的に迫った稀有な女性映画の待望の誕生となる。

『父、帰る』から約2年の準備期間を経て製作されたズビャギンツェフ監督長編第二作目は、世界のどことも知れない情景に、剥き出しになっていく夫婦のすれ違いと孤独、愛の果てを描いた、米国作家ウィリアム・サロヤンの原作による夫婦の物語。妻ヴェラが抱える言葉にならない不安と苦悩が、アンドリュー・ワイエスの絵画から着想を得た圧倒的な映像の中に、鮮やかに浮かび上がっていく。

『父、帰る』に続き主演したコンスタンチン・ラヴロネンコは、本作でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。妻の思わぬ告白に心を乱され、家族を破滅へと導いてしまう沈黙する夫を重厚に演じる。
妻ヴェラを演じるのは北欧映画界を代表する若手女優の一人マリア・ボネヴィー。舞うように軽やかな美しさと同時に、女性の神秘と強さを体現し深い印象を残していく。

出演:コンスタンチン・ラヴロネンコ/マリア・ボネヴィー/アレクサンドル・バルエフ/ドミトリー・ウリヤノフ
原作:ウィリアム・サロヤン 『どこかで笑っている(The Laughing Matter)』
脚本:アルチョム・メルクミヤン/アンドレイ・ズビャギンツェフ/オレグ・ネギン
音楽:アンドレイ・デルガチョフ 
2007年/157分/ロシア/カラー/スコープサイズ/2.0ch/DCP

キャストCast

コンスタンチン・ラヴロネンコ(アレックス役)
Константин Лавроненко

1961年、ロシア、ロストフ=ナ=ドヌ生まれ。ズビャギンツェフ監督第一作『父、帰る』で内外から一躍注目を集め、本作『ヴェラの祈り』でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を獲得。この業績に対し2009年ロシア連邦功労芸術家賞が与えられた。
現在、主に映画・テレビ俳優として、アクションものを中心に幅広く活躍している。他の日本紹介作品に『アークエンジェル』(05)、『殺戮島 ザ・バトルロワイヤル』(09)、『完全なる脱獄』(10)などがある。

マリア・ボネヴィー(ヴェラ役)
Maria Bonnevie

1973年、スウェーデンのヴェステロース生まれ、ノルウェーのオスロで育つ。スウェーデン王立演劇・パントマイムアカデミー在学中にビレ・アウグスト監督『エルサレム』(96)のヒロインに抜擢。スウェーデン王立ドラマ劇場でイングマル・ベルイマン演出『ブルグントの女王イヴォンヌ』(97)に出演。『I ag Dina』(02)でモントリオール世界映画祭最優秀女優賞受賞。現代北欧映画界を代表する若手女優のひとりと言える。日本紹介作品に『恋に落ちる確率』(03)など。2014年のカンヌ国際映画祭ではカメラ・ドール審査員を務めた。
『ヴェラの祈り』はボネヴィーにとって初のロシア語映画出演となった。ヴェラの声は『エレナの惑い』でカテリナを演じたエレナ・リャドワにより吹き替えられている。

コメント

  • 雨が降らなければ、小川の水は枯れる。愛が流れなければ、人の命も枯れる。
    でも、夫婦の間に横たわる闇と孤独の深さは、男と女にとって絶望的だとさえ思う。
    生きて行くという事は、それ自体がエゴなのだから。
    薬指にリングをした事がある人なら、痛いほど共感できる映画だと思う。

    湯川れい子 (音楽評論家・作詞家)
  • 男に求めるしかないのか。惑うエレナは収奪を決行し母性という名の愚かな愛を肥えさせる。
    祈るヴェラは自問の果てに愛の座において夫と子を流刑に処する。
    女が髪をまとめる時、女が髪をほどく時、手遅れが動き始める。

    あたしはべっ甲の髪留めを求めて歩いた。

    五所純子 (文筆家)
  • 私たちとは縁遠い、はるか彼方の大地の物語に見えるが、
    描かれたのは、ヒリヒリするほど身に覚えのある夫婦の食卓の風景(ディスコミュニケーション)だった。
    関係しているのに、関係できない男女の物語から、私たちは地の果てまでも逃れられないのだろうか。

    西川美和 (映画監督)――『ヴェラの祈り』へのコメント
  • “素晴らしく魅力的!”

    Stephen Holden, THE NEW YORK TIMES――『エレナの惑い』評
  • “魅力的で完璧な映像!全編にわたって映画を形成している暴力を秘めた役者の演技が素晴らしい”

    Roger Ebert, CHICAGO SUN TIMES――『エレナの惑い』評
  • “見事なノワール映画、皮肉なまでの満足度”

    Michael O'Sullivan, WASHINGTON POST――『エレナの惑い』評
  • “並外れた才能を持つアンドレイ・ズビャギンツェフによる厳格で美しい映像傑作!”

    Ty Burr, THE BOSTON GLOBE――『エレナの惑い』評
  • “適格なズビャギンツェフの手腕が本作を並外れた傑作にしている”

    Bill Goodykoontz, ARIZONA REPUBLIC――『エレナの惑い』評
  • “見事な演技と演出に彩られたミステリアスかつ現代的スリラー一瞬も無駄がない”

    Andrew O’Hehir, SALON――『エレナの惑い』評
  • “フィルム・ノワールをベースに、静かに我々の神経を逆なでするスリラー”

    Steve Dollar, THE WALL STREET JOURNAL――『エレナの惑い』評
  • “驚異的!ロシアにおける欠陥を抱える家族、金の問題、そして静かに横たわる絶望を描く見事なドラマ”

    Neil Young, THE HOLLYWOOD REPORTER――『エレナの惑い』評
  • “聡明かつ完璧にコントロールされたドラマズビャギンツェフは「世代」「格差社会」「人のうちに潜む獣性」を孕んだ心奪われる物語を提示してみせる”

    Justin Chang, VARIETY――『エレナの惑い』評
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