● ロージー作品との出会いについて教えていただけるでしょうか?

大学時代の映画ゼミ(蓮實重彦先生)で、『緑色の髪の少年』(48)と『エヴァの匂い』(62)を観たときです。両作品の雰囲気が大きく違うのに驚いた覚えがあります。

● 中田監督が手掛けた『ジョセフ・ロージー 四つの名をもつ男』(98)は、「映画作家による映画作家」論としても大変興味深い作品だと思います。「映画作家」としてのジョセフ・ロージーを、中田監督自身はどのようにとらえていらっしゃるでしょうか?

最初は、反骨気鋭の亡命映画作家というレッテル貼りを自分で勝手にしていたように思いますが、『非情の時』(56)や『エヴァの匂い』などの自らの父子関係、妻との関係をさらけだすように撮った作品を繰り返し観て、また家族の皆さんにインタビューをするにつけ、上記のレッテルに収まる作家ではないと考えるようになりました。「男性として愛することはできたけれど、人間として好きになれなかった」という三番目の妻、ドロシーの言葉が重く響きます。
こうした人間ロージーの複雑さが、作品に投影されていると思います。また私がBOX所収のブックレットの中で述べているように、ハリウッドで早撮り、長廻しの技術を学び、それが後年までどのようなタイトなスケジュールでも対応できる、あるいは制約を逆転の発想で、より面白い表現につなげていく融通無碍な度量を持った作家になったのだと思います。
ただし、『恋』(71)でカンヌ映画祭パルムドール賞を受けてからはヨーロッパの大家となりすぎて、作品の内容がやや型にはまってしまった嫌いはあります。但し、遺作となった『スチームバスの女たち』(85)は冒険的なことに再チャレンジしていますし、企画中だった、30有余年ぶりのアメリカロケ作品が是非とも観たかったですね。

● 『ジョセフ・ロージー 四つの名を持つ男』を撮影中で最も印象的だったエピソードは?

ブックレットの解説文にも書いていますが、信じがたいフイルム事故のため、『恋』の舞台の撮影に三度も出かけたこと(まるでロージーの霊魂が我々の撮影を見守っていて、少し悪戯を仕掛けてきたように感じたこと)、そして仕上げ中に夢でロージーと対話した(私は日本にロケに来ているロージー組の助監督として働いている)ことです。

● 中田監督のフィルモグラフィの中で最もロージー的と考えていらっしゃる作品はございますか?あるいは具体的なシーンがございましたら教えてください。

あまりロージーを意識しながら撮ったという作品はありませんが、キャメラが円運動する長廻し撮影という点では、『仄暗い水の底から』(01)で、水川あさみさんが、母親である黒木瞳さんの亡霊に再会するところでしょうか?今は廃墟と化しているアパートの部屋に誘われるように入り込み、キャメラは彼女の後ろ姿を追いかける。部屋内を見回すが母親はいない、しかし彼女が動いたそのときに「先ほどまではいなかった場所に」母親が姿を現し、母子の十数年ぶりの会話が実現するというものです。大それたことですが、ここでは、実は『雨月物語』(53)の田中絹代と森雅之との再会、『ラストエンペラー』(87)の少年溥儀の乳母との別れの円環運動するキャメラを意識しました。

● ロージー作品の魅力を一言で言うとなんでしょうか?

『M』(51)、『非情の時』に代表されるハリウッド的小気味良いストーリーテリングと
『できごと』(67)や『恋』での、登場人物の心情が簡単には読み取れない、隠蔽された装飾的作品と、極めて対照的な作品群があるということでしょうか。


● これをきっかけにはじめてジョセフ・ロージーの映画を観るという人への観賞ポイントは何ですか?

うーん、それは各人各様で良いと思いますが。可能ならば、ハリウッド・マッカーシーイズムについて書物(「ハリウッド映画史講義 翳りある歴史のために」(蓮實重彦著を推薦します)に目を通してから観ると、どの作品もより楽しめると思います。ハリウッドから追われたことは彼の作品に大きな影響を与え、随所にそれが顔を出しますので。

● もしジョセフ・ロージーに会えたとしたら、何を聞きたいですか?

聞きたいと言うより、「私を映画監督にしていただいてありがとうございます。あなたの映画キャリアとはちょうど逆回りに、日本、イギリス、ハリウッドと映画を撮って来ました。今もまだ続く「ホラー監督」というレッテルに狭苦しさを感じていますが、より面白い映画を作っていきたいと思っていますので、どうぞ観ていて下さい。でも今回のような「悪戯」は控えて下さいね」でしょうか。

● 中田監督の今後の活動について教えていただけるでしょうか?

現在、TVドキュメンタリー企画、サスペンススリラー企画(日本)、怪奇映画企画、アメリカでのホラーとサスペンスの混合した企画などが動いています。

●これからも監督のご活躍と作品を楽しみにしています!ありがとうございました。


中田監督書き下ろしの解説ブックレットが付属した『ジョセフ・ロージー BOX J・ロージー×D・ボガード×中田秀夫』。是非チェックしてください!

銃殺

1964, イギリス


召使

1963,イギリス


できごと

1967, イギリス