肉体と悪魔
  • 原題:FLESH AND THE DEVIL
  • 監督:クラレンス・ブラウン
  • 脚本:ベンジャミン・F・ギルバート
  • キャスト:グレタ・ガルボ/ジョン・ギルバート/ラルス・ハリソン

  • 製作年:1927年
  • 製作国:アメリカ
  • はい、『肉体と悪魔』、これはまたMGMの記念作品ですね。こういう記念作品は、やっぱり観ていただく価値がありますね。映画の歴史の中で大事ですね。

    といいますのは、グレタ・ガルボが初めてこれで一躍注目されたんですね。
    ガルボは、スエーデンからやって来ました。その時に英語知らなかったんですね。それで、「あんたなんちゅう名前か」きいたら、「グレタ・グスタフソン」と言ったんですね。
    「そんな発音されたら困るなあ」どうにかして奇麗な女を撮りたいので、モンタ・ベルという、女の柔らかさを見事に出す監督呼んで来て、グレタ・ガルボ主演の作品を二本つくりました。妖艶な奇麗なイブニング着て、いかにも妖艶な女をつくりました。

    でもガルボ、似合わないのね。全然そんな映画合わないのね。MGM困ったのね。
    そして今度考えたのは、クラレンス・ブラウンといいまして、一流の監督でガルボを活かそうとしたんです。
    クラレンス・ブラウンは、ガルボはやっぱりヨーロッパ的な女だから、そういうヨーロッパ風の映画がいいなと考えて、『肉体と悪魔』というのをジョン・ギルバートとガルボでやらしたんですね。

    これがガルボを活かしました。ガルボというのがとうとう、これで登場しました。
    不思議な、不思議な女、何かわからない女、毛皮のコート着てる、下に何も着てないかもわかんない、けれどもいかにも高貴なのね、いかにも神秘な女なのね。

    それで二人の男がその女について争ったんですね。でもこの女は不幸をまくんですね。男を無知にさして捨てて行くような役なんですね、神秘な女なんですね。
    それが最後に逃げて行くんですね。二人の男に追放されて、「なんだっていいよ、あたい、まだまだ男いっぱいいるよ」言いながら逃げて行く時に、ファーコート着たまま沼の上を通った。

    沼の上に氷があるから「ザブザブザブッ」と体中が水の中に入って、頭も全部水の中に入ってしまう。この映画が『肉体と悪魔』ですね。
    これのガルボがいいんですね。いかにもガルボが神秘な女なんですね。クラレンス・ブラウンが一躍ガルボを生かしたんですね。

    クラレンス・ブラウン、この人スタジオに家があるんです。スタジオにバンガローがあって、そこに家があるですね。そして私は十日間、毎日毎日クラレンス・ブラウンに会ったんですね。

    どういう訳か言いますとね、私が初めてハリウッドに行く時に、昔ですよ、私が三十の頃、今八十八だからわかるでしょ、その頃に水さかずきね、アメリカへ行くのにも、いやだねえ、アメリカに行くのに水さかずき。
    それで羽田には、木下恵介、笠置シヅ子、まだたくさん、見送りに来たんですね、水さかずき、もう永久に帰って来ないみたいな感じ、それでいっぱいの人が送ってくれて、飛行機に乗った。

    その飛行機はウェーク島で十時間、ウェーク島からハワイで十時間、ハワイからロスアンゼルスで十時間、そんなプロペラ機で行ったんですけど、その時に飛行機の中でクラレンス・ブラウンに会ったんですね。
    で、「あんた、クラレンス・ブラウンですか」と、思わず僕言っちゃったのね。そうすると、「YES.」どうして、僕をそう知ってるの、言うから「雑誌でいつも顔みてますよ」言ったら、そうか、そうか言った。

    それで飛行機の中で、奥さんも居るのに、あとで十分ぐらい会ってやる言うから「Thank you very much.」。
    その時分は飛行機の腹に休憩室があったんですね。マージャンしたり、トランプしたりあるいはちょっと一杯飲む所あったんですね。
    そこへ二人が入って話したら、僕がクラレンス・ブラウンの本当の始めの頃の映画から全部知ってるから、それから、それからって、どんどんどんどん、僕が何百人のスターの名前言ったら、みんな覚えとって、そうか、おれはそのスターは始めから好きだった、とか言いながら夜を明かしたんですね。

    そして朝になって、奥さんはもうとっくに寝てるんですね。そうして、またMGMで会おうな、言って別れた。そのクラレンス・ブラウン、私を非常に大事にしてくれたクラレンス・ブラウンの一番の恩人が、ガルボでしたね。

    『肉体と悪魔』でガルボを活かしたクラレンス・ブラウン。それと私は本当に親子のように話した事を思い出します。

    【解説:淀川長治】