幌馬車
  • 原題:THE COVERED WAGON
  • 監督:ジェームス・クルーズ
  • 脚本:
  • キャスト:J・ウォリン・ケリガン/ロイス・ウィルソン

  • 製作年:1923年
  • 製作国:アメリカ
  • パラマウント映画の『幌馬車』、これをお話ししましょうね。

    特に、パラマウント映画と言いましたのは今までの西部劇、フォックスがよく撮ってました。ジョン・フォードで。
    それは全部本当に砂漠、岩、そんな西部劇が多かったんですね。
    ジョン・フォードは、『シャイアン・ハリー』といいましてね、あのハリー・ケリー主演の西部劇がずーっとシリーズで続いてたんですね。
    だからウェスタンといいますとね、砂漠、岩、高原、そういうつもりでおりましたの。
    で、ウェスタンは当時西部劇と言ってまして、ウェスタンなんか言わなかったね。西部人情劇、そう言ってました。

    たいがい出て来るのは砂漠ですね。そういうので私達は慣れてましたの。そうするとパラマウントが今度『幌馬車』というのをつくったんですね。
    超大作、パラマウントが西部劇つくるの。『幌馬車』、なんだろう思いましたね。
    しかもそれに大きな字で、The Covered Wagonって出たんです。
    Covered Wagon、Covered Wagonってなんだろう思いましたね。
    幌なの、幌馬車なのね、ああそうかと思いました。

    どうして幌馬車いうのが出たんだろう。なんだろう?
    観たらこの映画、その幌馬車が100台ぐらい続くんです、ずーーーっと続くの。
    びっくりしますね。その見事な凄いスケールに。
    それがどんどん、どんどん、西部から東部へやって来るんですね。ちょうどあのジョン・フォードの『怒りの葡萄』、あのようにもう東部で暮らせない連中が、全財産をその馬車に積んでどんどんどんどん、オレゴンへ、オレゴンへ、西部へ、西部へと行く映画なんですね。

    で、当時これを観てびっくりしたんですね。西部劇がこんなのやるのか思いましたね。
    そうしておまけにオレゴンの行く道、ロッキーの山を通って行くんですね。
    そうすると、ロッキーの山が全部雪なんですね。
    雪の西部劇、雪の場面が出る西部劇なんて当時びっくりしたんですね。

    どんどん、どんどん上がって行くんだけど、この岸壁いうのかしらん、細ーい道を上がって行くんですね。そうするとその馬車が落ちるんですね。1台2台ぐらいダーッと下へ。
    それはもう、全財産乗せてる、人も乗せてる、それが落ちて死んじゃうんですね。
    そういうような事して、西部へ西部へと東部から行ったいうことが、この映画観たらよくわかるんですね。

    この映画観て、西部劇がこんな歴史劇つくったのかと思ってびっくりしたんですね。
    その『幌馬車』いうのもね、インディアンがどんどん矢を投げてくる、下から矢を上げて、上へ上げて、その矢が落ちて来ると馬車にあたるような仕組みで矢をどんどんやってくるから、馬車に幌を着せたんですね。

    これ、だれが考えたかいうたら、ドイツの移民が考えたんですね。ドイツ人が考えてこの幌を作ったんですね。
    それがどんどん流行というのか、みんな使われて、幌馬車、Covered Wagon、そういう形になったんですね。
    それがどんどん来て、西部劇がこんな立派な歴史劇になったのか思って僕らびっくりしたんですね。

    これはジェームズ・クルーズという第一級の監督が作りしまして、凄いなあ、パラマウント映画はこんな凄い西部劇つくったのか思ってびっくりしたんですね。
    それでその翌年にフォックスが、何くそパラマウントに負けるもんかと作ったのがジョン・フォード主演の『アイアン・ホース』ですね。

    『アイアン・ホース』は、Covered Wagonがそんな時代劇つくるんだったら、おれんとこは、汽車が西から東から、どんどんやって来て西部と東部が結び付く汽車の映画つくってやろう。
    その汽車、インディアンがアイアン・ホースと言ってた、鉄の馬、それを使った『アイアン・ホース』、これをフォックスがつくったんですね。一年あとで。
    ジェームズ・クルーズが大作品つくったあとで、ジョン・フォードがフォックスで、『アイアン・ホース』つくったんですね。

    そういう訳でこれは『幌馬車』、やがて次に『アイアン・ホース』という訳で、もう西部劇がついに歴史劇になったんですね。
    そういう訳で『幌馬車』は、映画の歴史に残る、ウェスタンがこういう大作つくるようになったいう、きわめつけの名作ですね。

    【解説:淀川長治】