美の祭典
  • 原題:OLYMPIA II
  • 監督:レニ・リーフェンシュタール
  • 脚本:
  • キャスト:

  • 製作年:1938年
  • 製作国:ドイツ
  • この『美の祭典』これは『民族の祭典』に続いて映画になりましたね。

    けれども私が思い出すのにこれは東和商事言う会社が全力をかけて20名の宣伝委員を集めて『美の祭典』『民族の祭典』を封切りましたね。で、『美の祭典』の頃、本当に日本中が全部『民族の祭典』『美の祭典』を映画の宝としましたね。

    で、私はその時ちょうど可哀想に『駅馬車』の宣伝だったんですね。『駅馬車』封切りの時に『民族の祭典』が出て来るんですね。もう『美の祭典』が出て来るんですね。私は辛かったね。辛かったかな、可哀想だったね。で、私はこの映画を憎んだんですね。ところがこの映画のポスターが出たんです。ポスターが出た時にこのポスターどんなポスターかと言うと、男と女が全裸で向こう向いてるんですね。太陽光線の方向いて、つまり美の祭典だね、肉体の。それをポスターにしたんですね。ところが日本の当局にえらい怒られたんです。「何だ全裸の奴が後ろ向きやがって、お前達はこれを見て本当に本気に喜んでいるのか。」なんて怒られてポスター変えたんですね。それを秘かに喜んだくらいこの作品を憎んだんですね。もう競争で、競争で。

    で、私がタクシーに乗ってお前達が『美の祭典』している頃「良い映画でしたな。」『民族の祭典』している頃「あれはなかなか良いでしたね。どっちも良いですね。」言うので、憎らしくて憎らしくて。「お前『駅馬車』知ってるか?」って言ったら「そんな映画知りません。」て言うので、そういうので腹が立って腹が立ってもうあらゆるタクシーに乗って「君、『民族の祭典』知ってるか?」「良い映画でしたね。」「『駅馬車』知ってるか?」「知りません。」もう腹が立って腹が立ってもう何回タクシー乗って怒ったかわからない。しまいにとうとうやっと「『駅馬車』って良いですね。」って言う事でホッとしたんですけど、この『駅馬車』の宣伝に困っちゃったんですね。私は一人きりです。

    向こうは東和商事は20人ですよ、これに。だからこれはとってもたまらん思って私はこの『駅馬車』の宣伝を頼みに東和行ったんですね。敵のライバルの所へ。そこに野口君っていうのが居たんですね。そいつに「『駅馬車』助けてよ、僕一人なんですよ。」と言ったら「よし、俺手伝ってやる。」てね、その東和のライバルの会社が僕のユナイテッドの『駅馬車』の宣伝を手伝ってくれてポスターに絵を描いてくれて、おまけに予告編まで作ってくれたんですね。どこで作ったかと言うと東和で東和商事作ったんですね。内緒で隠れて鍵かけて、あの映写技師に頼んで。という訳でこの『美の祭典』『民族の祭典』は私の最も嫌いな敵ですけれどもこれを助けてくれた東和商事の野口くん、これ今思い出しても「ああ、あの頃は一生懸命やったな、一生懸命やったな。」と思いましてこの『美の祭典』『民族の祭典』を私は改めて観て綺麗な映画だな、見事だなと思いましたよ。

    そうしてずっと後に市川崑が日本のオリンピックの映画を作るんでどうしようかと言ったんですね。で、市川くんに聞いたんですね。「あんた『美の祭典』『民族の祭典』観たんでしょ。」「観た、観た。」で、「ああいう映画作る。」「ちょっと無理だな。」で、「あんたね運動してる?」「全然運動知らん。」「運動知らないのがオリンピック出来るのか?日本の。」って言ったら「うん、俺も困ってるんだよ。」「そういうのだったら選手のね、手のひらだとか足の裏うつしなさいよ。で、選手らのお便所行く所うつしなさい。」って言ったら「おう、そうする。」なんて言ってましたけれども、この『民族の祭典』と『美の祭典』は見事なもう今日までのスポーツ映画の最高ですね。

    で、日本に日本の旗を掲げる所を入れてるなんて言うのはいかにもヒットラーでしたね。という訳でこの映画でどんなに日本人が全部ドイツびいきになった、それだけでも怖いと思いましたよ。

    【解説:淀川長治】