たそがれの維納(ウィーン)
  • 原題:MASKERADE
  • 監督:ヴィリ・フォルスト
  • 脚本:
  • キャスト:パウラ・ヴェセリー/アドルフ・ウォールブリュック/オルガ・チェーホワ/ペーター・パーターゼン/ワルター・ヤンセン/コンスタンス・コリア


  • 製作年:1934年
  • 製作国:オーストリア
  • 『たそがれの維納』。
    これはみなさん、ご覧になったかな。
    本当にドイツ映画がどんなに立派だったかいう、黄金時代の作品ですね。
    ドイツ映画と言いましたけど、これはウィーンの映画なんですね。
    ドイツでも違うんですね。ウィーンの映画は本当のハイ・クラスなんですね。

    『たそがれの維納』というのは、今みなさんがご覧になって、こんな美術的な、こんなすごい映画を作っていたのかと思われるようなハイ・クラスの映画ですよ。
    どんな映画か?ある女が富くじで、すごい、すごい、チンチラの毛皮のコートが当たったんですね。

    そのチンチラの毛皮があんまりいいので、その女を全裸にして、真っ裸にして、その毛皮着せて、仮面つけて撮ったんですね。えらい評判になった。
    きれいな、けれどもその画家は有名な色事師。有名な女殺し。

    だから世間で「このモデルは誰だろう?」って言ったんですね。
    「あの、侯爵夫人にちがいない。」って言ったんですね。
    全裸の女。毛皮着てるから、前もみえない、おっぱいもみえないけど、全裸はわかっているからこれはただの関係じゃない。

    この絵描きとこのモデルとはスキャンダルだ、と思ったんですね。
    けど、マスクかけているから誰だかわからない。
    このモデルは誰だろう?誰だろう?で、この映画はものすごくおもしろい物語になりますね。見事だね。
    女というのは次から次出てきて、誰が犯人だろう?というか、誰がモデルだろう?そういう映画で、見事なウィーンの映画。
    当時ドイツ映画がいろいろありましたけど、ウィーンの映画いうのは、特別の映画なんですね。

    というわけで、『たそがれの維納』。
    これはウィーンの映画でも、最高の代表作品ですね。
    みなさんが、今これご覧になったら、こんな文学的な、しかもこんなにきれいな女優が出て、こんなきれいな話がよくあったなあ。おもしろいなあ。本当に文豪の小説だと思われるでしょう。

    この主役の男、アドルフ・ウォールブリュックといいますね。
    アドルフ・ウォールブリュックはのちに、あの『赤い靴』で演出家になりましたね。

    というわけで、品がよくて、立派で、何ともしれない芸術的な香りを画面いっぱいに匂わして、しかも話がスキャンダル。
    女と男のこわい秘密の裏側。それを覗かせる不思議な映画。
    このウィーンの映画は特別にすごかったですね。
    これご覧になったら、こんなすごい映画あったのか、こんな映画を一辺自分の部屋で独りそーっと観たいなと、みなさんきっと思われるでしょう。

    【解説:淀川長治】