アンナ・クリスティ
  • 原題:ANNA CHRISTIE
  • 監督:クラレンス・ブラウン
  • 脚本:フランシス・マリオン
  • キャスト:フランシス・マリオン/チャールズ・ピックフォード

  • 製作年:1930年
  • 製作国:アメリカ
  • ガルボのトーキーなんですね。
    スウェーデンのなまりのきついガルボ。
    トーキーになったらガルボの命とりだ、もうガルボはこれでダメだ。世間でそういってたんですね。
    MGMはガルボトーク、ガルボが本当にしゃべるんだというので宣伝に大きく出したんですね。

    でガルボはこの映画『アンナ・クリスティ』に主演したんですね。
    この映画、おもしろいことにガルボの役が、早ーくから家出して、船の船長、小さな船の船長の家、お父っちゃんのとこから家出して、五年六年たってから帰ってきたのね。
    そっから始まるの。

    いかにもあばずれ女になって、入ってくるなり「あたい、ウイスキー飲みたいわ」。それが第一声なのね。
    「あたい、ウイスキー飲みたい」っていってきたのね。その言葉が「ヴァイ・ヴォント・ヴィスキー」って言ったのね。もうね、びっくりしたね。

    でもちょうどそれが、ちょうどぴったり合ったのね。
    すっかり疲れて疲れて、夜飲んで疲れて故郷に帰ってきたのね。
    そういう時に彼女のスウェーデンのなまりが、「アイ・ウオント・ウイスキー」と言えないのね。
    「ヴァイ・ヴォント・ヴィスキー」だったのね。大変なミステイクだ。
    だけどそれがうまーくぴったりあたったのね。

    というわけでガルボーのトーキーは本当にまぐれあたりだったけれども、『アンナ・クリスティ』でパス。
    これでよくなった。
    それからは、どんどんどんどんトーキーでガルボは有名になりましたね。

    グレタ・ガルボとディートリッヒ、よく対立しますね。
    ディートリッヒは粋な人、ガルボは粋といえないのね。
    ガルボ帝国なんていう名前つけられて、スフィンクスの女王みたいな評判とったんですね。
    で、ガルボは本当にアメリカの映画の歴史の中で不思議なガルボ帝国の女王なのね。

    というような感じの女でガルボは見事な見事な女優ですね。
    「アイ・ワオント・ウイスキー」というふうに女くさいところがだめなのね。
    でガルボにインタビューしたときにあんたの一番つらい映画はなんでしたかというと「椿姫」ですといったのね。
    あの巴里の淫売、そういう役は絶対にだめなの。わたしキライなの。
    そう言ったくらい、ガルボは女のにやけた、やわらかいのはぜったいにだめなのね。

    そういうわけでガルボはアンナ・クリスティに選ばれたことはひとつの幸いでしたね。
    ガルボはおもしろい性格の女で、とうとう一生ひとりもんでしたね。
    『西部戦線異状なし』のあの若い兵隊になったリュー・エアーズ、あれをちょっと愛しました。愛しましたけれども可愛いがったほうですね。

    でもどんな男が求婚してもノーノーノーで誰とも結婚しなかったというのが、ガルボの不思議な生涯でしたね。

    【解説:淀川長治】