モロッコ
  • 原題:MOROCCO
  • 監督:ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
  • 脚本:ジュールス・ファースマン
  • キャスト:ゲーリー・クーパー/マレーネ・ディートリッヒ

  • 製作年:1930年
  • 製作国:アメリカ
  • ディートリッヒ、スタンバーグ、このコンビの最も代表的な作品『モロッコ』この話しましょうね。『嘆きの天使』『ブルー・エンジェル』これで一躍、ディートリッヒは有名になりました。

    そしてスタンバークも有名になりました。このスタンバーグですけど、面白い事にスタンバーグはアメリカで色々色々と映画学生で映画作っていたんですね。そして何か『The Salvation hunters』とか言う映画を自分で作って、ジョージ・K・アーサーとか他、全然知らん女優と子供使って一本作ったんですね。それをチャップリンに観てもらいたい為にチャップリンに「観て下さい」と言いに行ったんですね。チャップリンの所には他にも色んなの来るから、もちろんいっぺんに断られた。あくる日も、あくる日も、又あくる日もチャップリンの所に「どうぞ観て下さい」と来たんですね。

    そして玄関で応対するのが高野虎市さんだったんですね。で、この人が「駄目ですよ、チャップリンは色んなの来ても観ないんですよ。観る間が無いんですよ。」と断った。ところが6日間も来たから、高野さんがちょっと気の毒になってきたんですね。この人の。で、「あなた、何て人ですか?」「ジョセフ・フォン・スタンバーグ」「ドイツの人ですね?」「はい。」「それではいらっしゃい」黙ってチャップリンの家の試写室にそれかけて「チャップリンさん、ご主人、ちょっとだけちょっとだけ、1本5分間観て下さい」言ったんですね。そうして映してやった。チャップリンは観ているうちに全部観てしまった。「すごい!!凄い!これは名作だ!」そう言ってスタンバーグの『The Salvation hunters』をチャップリンが喜んで引き受けて、自分が宣伝してやる、この費用も出してやる、と言ったんですね。

    もうスタンバークはびっくり仰天したんですね。けれども喜んだスタンバーグはあと2本作った。全部駄目、もう1本作った、駄目。チャップリンはその費用出しながらスタンバーグに「駄目だよ。」と怒った事が有るんですね。けど、まず最初にスタンバーグを拾ったのは高野虎市さんですね、番頭さん。という訳で、スタンバーグは流れ流れてついにドイツ帰って『嘆きの天使』『ブルー・エンジェル』で一躍有名になって改めてパラマウントを迎えたのが『モロッコ』ですね。さあこの『モロッコ』いかにも面白い、綺麗。何が綺麗かと、キャメラが綺麗でそしてムードが良い。一番最初モロッコに流れて来る女がいるんですね。そうすると金持ちの男が遊び半分にモロッコに来るんですね。そして、金持ちの男が、そのスタンバーグの初めて発見したこのディートリッヒを見て一目惚れをして「君、もしも困った事が有ったら俺の所に来い」と名刺渡したんですね。そこから始まるんですね。

    ディートリッヒは「あー、ありがとう」と言いながら喜びもしない、悲しみもしないのね。そういう女なってんの。そうしてそのアドルフ・マンジュの金持ちが行った後で、それをピリっと破ってポイと捨てちゃうのね。そこから始まる、いきなりスタートですね。そうしてマレーネ・ディートリッヒがどんな役やったか?見事な映画で、これで一躍アメリカのディートリッヒが生まれたんですね。粋な粋な映画、しかもこれはトーキですからもう、アミ―・ジョリーがトム・ブラウンと言うその兵隊が好きになって、トム・ブラウンがゲーリー・クーパーですね。そうしてその金持ちが、囲われている金持ちがアドルフ・マンジュですね。ところが好きになっているから別れようと思っても別れられない。それで、外人部隊に入ったクーパーそれがいよいよスタートする。出て行く。

    「いいわ、もう別れたんだからいいわ、もうあの男の事は諦めちゃおう。私は金持ちの方がいいから。」すましている。ところがドンドンドンドン太鼓が聞こえてくるんですね。もういてもたってもいられなくなってくるんですね。主人が「何しているんだ。」言いながら見ていると、もうどうしても駄目だ、会いたい、会いたいと思ってキャーとやったら首飾りのネックレスの真珠の珠がパーっと散って落ちたんですね。パラパラーっと。そうして彼女はそのまま飛んで行ってトム・ブラウンが外人部隊になってずっと砂漠の彼方へ行くのを後からずーっとついて行って終わりになる。その外人部隊の旗がパタパタパタパタ音がしてる。そこで終わっていくのね。いかにもスタンバーグらしい映画、ディートリッヒらしい映画で、この『モロッコ』でアメリカのディートリッヒ、アメリカのスタンバーグが一躍有名になりましたよ。

    【解説:淀川長治】