上海特急
  • 原題:SHANGHAI EXPRESS
  • 監督:ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
  • 脚本:ジュールス・ファースマン
  • キャスト:マレーネ・ディートリッヒ

  • 製作年:1932年
  • 製作国:アメリカ
  • 『上海特急』『SHANGHAI EXPRESS』ですね。これは有名なスタンバーグ監督、ディートリッヒの主演ですね。もうこのコンビは見事でしたね。

    ドイツで『嘆きの天使』二人でやりましたね。スタンバーグとディートリッヒで。それからアメリカ行って『モロッコ』やりましたね。『モロッコ』で偉い評判取りましたね。それから『間諜X27』やりましたね。『間諜X27』が又良かったんですね。スタンバーグとディートリッヒが。その次が『上海特急』でしたね。で、これが又、いかにも映画的なんですね。キャメラが凄いんですね。そういう意味でスタンバークとディートリッヒのコンビの盛り上がった時ですね、『上海特急』は。

    何かこの、革命が起こって北京から上海に逃げて行く話ですね。そういうストーリーはどうでもいいのね。いかにもね、この女が、その汽車に乗っているそのムードが凄いですね。そうしてこの町の真ん中の狭い所を汽車がトットトットッと行く所が凄いですね、キャメラがね。スタンバーグのこれは見事な感覚ですね。

    という訳で、この映画、スタンバーグとディートリッヒの盛り上がった最中ですね。で、スタンバーグとディートリッヒは、『嘆きの天使』『モロッコ』『間諜X27』『上海特急』『ブロンド・ヴィナス』『恋の外貨?』『恋のページェント』『スペイン協奏曲』こんだけやりましたね。こんだけやっているから世間でも評判になりましたね。そうしてスタンバーグの奥さんが怒りましたね。「あたしの夫、返してちょうだい。」と言ったんですね。そうするとディートリッヒが「あら、そうですか。私いつでも最初からお返し致しますよ。そんな事おっしゃっても私、何の関係も無いのですから。」と鼻で笑ったんですね。という訳で、この二人のコンビはスタンバーグの奥さんが頭に来たんですね。ところがディートリッヒは、あんなスタンバーグみたいな人、私嫌いだわ、という顔していたんですね。そこらあたりが凄かった。

    そうして長い長い長い、このスタンバーグの時代が終わって、ずっと後にスタンバーグが『アナタハン』日本来て作ったり、ずっと後にもう人気無くなった頃、私RKOでスタンバーグに会ったんですよ。で、「ハロー、スタンバーグ。」と言ったら「Oh」そういう訳で目の前でハロー、スタンバーグと言えたんですね。て言うのはRKOではスタンバーグなんてもうどうでもいい感じなんですね。だからRKOのスタジオの洗濯場所から洗濯物を肩に担いでスタンバーグ自身が持って行く様な道を歩いているんですね。まあ可哀想になと思ってベンチ腰かけて「スタンバーグさん、あなたにディートリッヒの事は一言も言えない。もうディートリッヒと別れているから。だから、スタンバーグさん、お元気ですか?」「イエス、サンキューベリーマッチ。」そう言ったけれど、何にも言えなかった。スタンバーグに、ディートリッヒの事をあんたどう思いますか?なんて事を一言も言えなかった。

    けれどもスタンバーグがまあ、成れの果てなんて言ったら悪いですけど人気を失ってRKOで自分で洗濯物を持って帰る所を見た、あーあのスタンバーグがな。と思いましたけれども、その『上海特急』は最も凄いスタンバーグの頃ですね。最も凄いディートリッヒの頃ですね。で、『間諜X27』ですか、これも凄かったね。これご覧なった人わかりますけどスタンバーグの描き方がいかに立派だったかね。

    例えば『間諜X27』ではディートリッヒがスパイなんですね。「あいつを殺せ。」言うんですね。そうして銃殺する事になったんですね。それ殺る時にスタンバーグの演出が見事でしたね。ディートリッヒが「ちょっと待って」と言ったんですね。「あんた、すまないけどそのナイフ、そのサーベルちょっと貸して下さい。」と言ったんですね。そしたら、その若い兵隊が、「何ですか?このサーベル要るんですか?」「あっ、ちょっと要るのよ。」持って来たんですね。今殺されるディートリッヒですよ。そのサーベルの光を見て自分の顔を映して口紅で直したんです。口紅をね。凄いんだね、そのシーンが。そうしてちゃんとしてからバーンと殺されるんですね。そういう風な事をする。ディートリッヒがいかにも女の見事な感じ。そうしてこの映画の中でいかにセンチメンタルか、映画自身が。そういうの見せていかにもオリエンタルな中のディートリッヒの美しさ、これ見事に魅せましたね。

    【解説:淀川長治】