類猿人ターザン
  • 原題:TARZAN THE APE MAN
  • 監督:W・S・ヴァン・ダイク
  • 脚本:
  • キャスト:ジョニー・ワイズミュラー/ニール・ハミルトン

  • 製作年:1932年
  • 製作国:アメリカ
  • 『類猿人ターザン』、ターザン、ターザン、聞いただけで懐かしいなあ。

    で、ワイズミュラーのターザンですけど、一番最初、大正七年頃、大昔ですねえ、ターザン、来ました。私が、そうね、十才の頃ですね、もう八十年以上前だね、その頃だね。その頃、ターザン来ました。

    けど、当時、だーれもターザン言うのは、何の事かわからなかった。
    で、映画館も類猿人なんて名前知らなかったから、ターザンで封切ろうか、ターザンで封切ったんですね。

    とこれがお客さんはターザンって何だべー、知らないから、ターザン、ターザン、ターザンって何だろう思って行ったんですね。
    で、僕もターザンとは何だろう、思って観に行ったんですね。そしたら、最初のファーストシーン、お墓なんですね。
    ターザンの、お父さんとお母さんの墓があって、そこに線香が置いてある。アメリカだから線香でなく油のね、入ったものがおいてある。油の入ったものが、煙が、こう、揺れてる。それがファーストシーンなのね。

    そうして、お父さんお母さんは死にました。ここにターザンいう子供は、どうして生まれたか、どうして育ったか、お母さんとお父さん死んだ時には、この子本当に生まれて間もない、子でした。それが今こうなりました、いうところから始まるんですね。
    そうしてターザンの、子供が、七才、八才の子供がもう森林の中走り廻ってるんですね。その猿と一緒に。

    その猿、もう十頭、十匹いるんでしょうか、十五匹いるんですか、その猿に囲まれて小さい白人の男の子、見てるとその猿が全部人間が入った猿ですね。けして本当の猿じゃないですね。当時、大正時代の映画ですから、お猿が全部人間のお猿なんですけど、当時そんな事構わないの、猿の中に囲まれた子供、「かわいそうだなー」と思って観ていました。

    ところがその子供が、みんなと一緒に泉行って水飲むとこあるんですね。で、みんながペロペロ、ペロペロ舐める時に、ターザンの子供が、ペロペロ、水舐めた時に自分の顔が白いんですね。何でわしだけ白いんだろう、わしだけ白いんだろう、泣くんですね。

    そういうところのターザンを見た時に、ターザンいうのはそういう話かってんで、びっくりした事あるんだけど、そのターザン、エルム・リンカーン、『イントレランス』で、もう巨人、巨大なる体格の男です、それがエルム・リンカーンなって、エルム・リンカーンのターザンはどんどん続きましたけど、後に水泳選手のワイズミュラーがターザン演りました。

    これがまた、かっこいいんだ。奇麗な体で、もうそのターザンは、もう見事なターザンだったんですね。
    で、サイレントの頃は、ターザンはサイレントだから、音が声が出ない。で、胸を叩くんです、ポン、ポン、ポン、ポン、とね。
    それが評判で、ターザン言いますとみんな叩く事になったんです。

    ぼくら小学校ん時によく運動場でポンポン叩きましたね。真似してね。
    そういう事でしたけども、トーキーになってからは、そのワイズミュラーのターザンは吠えるんですね、声出してね。「ワーオーワオー」このヴァン・ダイク言う監督がうまいですね。

    という訳で、ターザン良くなりまして、素晴しき人気で、もうワイズミュラーのターザン、どんどん続きましてね。かっこがいいから体が。
    ところがワイズミュラー、この人は、オリンピックの選手で水泳選手なんですね。俳優じゃないんですね。俳優じゃない、俳優じゃない人が、アクターじゃない人が、これを演らされて、ずーっと演って、演って、演って、演り遂げたら疲れきったんですね。

    俳優でないのが、演技を続けたから、どーも変になっちゃって、晩年は病院に入ったんですね。病院に入って病院で寝ていて、時々「ワオーッ」とやるのね。ターザンの真似するのね。で、みんなに、あの人はねちょっと変になったね。かわいそうにワイズミュラーの晩年は、そういう風なターザン狂になっちゃったんですね。ターザン狂いになったんですね。

    という、かわいそうな話もありますけど、ターザンはアメリカ映画の、本当のドル箱ですね。で、ターザンと言いますと、他にもたくさん、たくさん、ターザン演りましたよ。

    けど、ワイズミュラーのターザンと、エルム・リンカーンが一番人気がありましたね。
    で、ターザンで一番おもしろいの、ジェーンというのいますね。で、ジェーンがいつも相手役でターザン、ターザンここへおいで、なんでゆうんですけど、僕は子供の頃に十才の頃にターザンを観て、一番関心したところはジェーンが、バナナ採ってくるんですね。バナナを剥いてターザンに食べさすんですね。

    その時のバナナの剥き方がとっても奇麗なのね。あんなに剥くのね。ちっちゃーいバナナですよ、そういうところが逆に映画のおもしろさでしたね。
    で、ターザン、ターザンと言うんですけど、このサイレントの頃は弁士がターザンと言うんですね。それ、「ターザン、ターザン、ターザン」、ターダン....に聞こえるんですね。甘えて、甘えて、「ターダン、ジェーンだよー」なんて言うのね。そういうのが印象に残ってね。

    という訳で、ターザンは、アメリカ映画のやっぱり一つの名物ですね。
    で、ターザン役者はエルム・リンカーンとかワイズミュラーの他、もう十人ぐらい演りましたよ、ターザンを。

    という訳で、ターザンが人気あるのは、やっぱりジャングルの話だし、それと同時におばさん達がターザンの男の裸、これが魅力があったんですね。
    というような訳で、ターザンはアメリカの名物です。

    【解説:淀川長治】