バルカン超特急
  • 原題:THE LADY VANISHES
  • 監督:アルフレッド・ヒッチコック
  • 脚本:シドニー・ギリアット
  • キャスト:マーガレット・ロックウッド/マイケル・レッドグレイブ

  • 製作年:1938年
  • 製作国:イギリス
  • ハイ。『バルカン超特急』、これ、ヒッチコックですよ。ヒッチコックの、英国の映画ですよ。

    英国の映画は、鬱陶しいと思って、観ない人がたくさんあった。けど、ヒッチコックの英国の映画は、本当のヒッチコックのオリジナルですね。という訳で、見事でした。私はヒッチコックを、映画の神様と思うぐらいに好きでした。

    で、ヒッチコックが日本に来た時に、私は会いました。ヒッチコックのしゃべり方、上手いんですね。「昔々ね~。こういうときにね~」 と言う事を、まるで本当、日本語でおっしゃってる様な感じなんですね~。

    そうして、おもしろい怖い話、聞きました。「へえ~」と言った時に、「おわかりですか?」なんて言って、最後に座って、椅子が有りませんですから、座布団を5枚重ねてそこへ腰かけてたんですが、立ち上げてやっとこさ立つのに、痛くて痛くて、「あー痛い!」言うたんですね。脚が。
    「ヒッチさん。どうなさったの?」 「いやー膝が痛くてね」 と言わないで、「ジャパニーズ」 「ジャパニーズ」 言ったんですね。ニーズいうのは、膝の事ですねー。私は面白くて、「まあー。ジャパニーズ? そう、私のジャパニーズ、私のニーズをあげますよ。」と言ったら、「サンキューベリーマッチ」と言ったんですね。そういう事がありまして、この人のしゃべり方の上手いのと、それからシャレが上手いのに、びっくりしました。

    それから3年も経ちました。3年も経って、ああいう事があったなー言うことも忘れた頃、私はNHKのテレビ見ました。NHKで有名なアナウンサーがいらっしゃって、その方がロサンゼルスに行った時に、ヒッチコックにインタビューなさったのね。その方が、ヒッチコックにインタビューする時に待ってますと、ヒッチコックがやわらゆっくりドアを開けて出て来たんですね。そうして、小さな小箱持ってたんですね。そうして、座るなり、「君、この小箱に何が入っているか、ご存知ですか?」って言うから、びっくりしたんですね。その人。
    「何が入っているか、わかりません。」て言ったのね。
    「君は知らないのか? これは、淀川の膝の骨だよ。」

    私は、偶然見とったから、飛び上がっちゃったんですね。こんな事言うと思わなかったから。

    「これは、ミスター淀川の骨だよ。 淀川は、最近ずっと試写に行く時に、足をひきずっているだろう? かわいそうだから、これ返してやる。」

    そんな事を、テレビで言ったの見て、偶然、偶然、僕は見て飛び上がっっちゃったんですね。それぐらい、ヒッチコックは良く覚えてくれてましたね。
    それから、もうひとつ、この人はニワトリ屋の子供だったんですね。かしわ屋、関西で言う、鳥屋、鳥屋さんの子だったんですね。だから、鳥屋さんの家に、卵がどんどん、どんどん有るんですね。それで、卵が嫌いになったんですね。どれみても卵見たら、うーと怒ったんですね。嫌いで、嫌いで…。

    だから、このヒッチコックの映画を見たら、卵をどんな事、利用するか?卵は、目玉焼きが皿に出てきたら、たばこを吸いかけたそのたばこを、たばこを、スっとその目玉の卵の上に、突き刺しますね。そんな事が好きですね。

    ところが、コックさんどうしが喧嘩になった。硝子の戸があるんですね。あっちの硝子の向こうの戸、こちらと喧嘩するんです。で、こっちが卵投げたんですね。バシャーんと硝子に当たったんですね。硝子に当たって卵が流れたら、向こうの男の顔が、血が流れた様な感じになるんですね。卵の使い方が上手いし、卵が嫌いだ。という事もヒッチコックの面白い癖ですね。

    で、この人が日本に来た時に、まあ立派な立派な日本の、もう名、名立派な料理店で、座らして、ご飯食べさした時に、綺麗な綺麗な、日本料理でた時に、「私は、これらは食べません。」て言ったんですね。憎らしいね。「私は、ビフテキが好きです。」こんな所で、ビフテキ食べられたらたまったもんじゃない。と思ったんですけど、好きです言うから、しょうがないから、帝国ホテルから初めて、ビフテキを配達させたんですね。そういう人でした。で、「あなたの殺し方凄いね。いつでもあなたの殺し方見て私はゾッとするんです。あなたのアイデアですか?」

    「いや。それは私じゃありません。」 「誰がやるんですか?」 「これがやるんです。」 で、隣におくさんが、じーっとご飯、食べてるとこ見て、「これが作るんです。」何ていう所が、いかにもヒッチコックらしくて、ヒッチコックがどんなに、お客さんを喜ばせるかいう事が、良くわかりますね。

    【解説:淀川長治】