東への道
  • 原題:WAY DOWN EAST
  • 監督:D・W・グリフィス
  • 脚本:
  • キャスト:リリアン・ギッシュ/リチャード・バーセルメス

  • 製作年:1920年
  • 製作国:アメリカ
  • はい、『東への道』、Way Down East。
    私はこれを学生の頃観ました。学生の頃観まして、Way Down Eastですか、これで、Eastが東、いう事を頭に染み込ませまして、それでやっとEastが良くわかったなんていう幼稚な観方しましたけれど、この映画はグリフィス監督、『イントレランス』の監督がつくりました。

    『イントレランス』をつくって、物凄い、物凄い超大作をつくりまして、本当に借金が山盛りになったんですね。
    それであわてて昔のグリフィスに返る。グリフィスはやっぱり愛の映画だというので『散り行く花』をつくりました。
    『散り行く花』をつくって、僕の映画は本当はこれだよ、そして『スージーの真心』とか、かわいい、かわいい映画をつくりました。

    そうして今度はメロドラマ。「おれはメロドラマがこんなにうまいんだよ」とつくったのが『東への道』ですね、Way Down Eastですね。で、Eastで東だいうことを勉強したんですね。
    なんでWay Down Eastいうのか今でもわかりませんけど、これはいかにも奇麗なリリアン・ギッシュ、リチャード・バーセルメス、あの『散り行く花』のコンビですね。
    それにクライトン・ヘイルとか、いろいろ出てますけど、これは『散り行く花』のような夢物語でなくて、本当にある村の豪農の話ですね。

    大きな、大きなお屋敷があったんですね、田舎に。
    そこに、召使いにかわいい娘がやってきたんですね。
    で、そこで一生懸命に働いたんですね。働いて、働いて、みんなにいい娘だな、いい娘だな。そしてその豪農のお家に、リチャード・バーセルメスの扮してる息子がいたんですね。その息子は、本当に立派な心がけのやさしい女だから結婚しようと思ったんですね。

    そこへ都会の男が一晩泊りに来たんですね、そこのうちへ。
    その男が、その娘は確か子供ができて逃げて来たんだよ、そういうこと言ったので、かたいかたい豪農の家中がびっくりしたんですね。それを聞いて驚いたんですね。

    で、リリアン・ギッシュのその娘は、もう私はとってもたまらない言って夜中に逃げていったんですね。どんどん、どんどん、雪の中を逃げたんですね。
    そして死のう、死のうと思ったんですね。
    逃げて、逃げて、道で倒れたんですね。でも、倒れたの道じゃなかったんですね。
    河が氷結して、河が氷で固まっちゃってたんですね。で、雪が積もってたんです。
    道かと思って行きながらそこにばったり倒れたんですね。

    一方、豪農の家の息子は「そんな娘じゃない、そんな娘じゃない、あの娘は立派な娘だ」、後をどんどんと追っかけてたんですね。
    追っかけて追っかけて「どこ行った、どこ行った」、探してほっと見たら、遠くの、あの河の上で倒れてるんですね。

    あんな所で倒れてる、死んじゃうじゃないかって、慌てて飛んで降りていって、「おーい、おーい」とつかもうとしたら、朝方でだんだん雪、氷がとけてきて割れて、その女を乗せたまま流れてゆくんですね。

    たまったもんじゃない、向こうに行ったら滝がある、あぶない、あぶないとその割れた氷、それをピョンピョン、ピョンピョン、ピョンピョン飛びながら、もう、どんどん河が流れて行く、滝のとこへ行く、滝のとこへ行ったらもう女は死んじゃう、いうところで、パーッと助ける....これが傑作なんですね。

    で、グリフィスは、そういう危機一髪がまた好きだったんですね。
    『イントレランス』でも、死刑執行の瞬間に助けに行く場面がありますね。
    リリアン・ギッシュ、バーセルメスのこの作品はその河、助けるところが凄いですね。
    そうして助けて、みんなをあらためて迎えるんですね。

    けれど、この映画で一番おもしろいのは、その氷の上ですね。
    撮影は、本当に氷結している氷の上でリリアン・ギッシュは寝たんですね。
    で、リリアン・ギッシュに後で聞いたら「私、もう1分間ながいこと撮影されたら、死んじゃってた」。片っぽの手は水に浸かってたんですね。

    そうして横へ倒れて、本当の氷の上、雪の上ですね、こういう撮影を昔はしたんですね。
    そうして本当にキャメラをまわしたんですね。
    で、リリアン・ギッシュはこの役を演ったんですね。
    『東への道』は命がけのリリアン・ギッシュの作品ですね、なにしろ見事な映画でした。

    危機一髪を助ける瞬間の怖さ、それはグリフィスのもう大得意なシーンですね。
    『東への道』は、メロドラマですけども、いかにも、いかにも、グリフィスの感覚があふれた愛の映画でしたね。

    【解説:淀川長治】