恋愛準決勝戦
  • 原題:ROYAL WEDDING
  • 監督:スタンリー・ドーネン
  • 脚本:アラン・J・ライナー
  • キャスト:フレッド・アステア/ジェーン・パウエル

  • 製作年:1951年
  • 製作国:アメリカ
  • 『恋愛準決勝戦』。ロイヤル・ウェディングですね。
    日本語難しいですね、『恋愛準決勝戦』なんて。

    これでおもしろいのは、フレッド・アステアが部屋を廻りますね。天井から下から全部、クルクル、クルクル上へ上がりますね。どう撮影したかと思われますね。
    でもちょっと映画好きな人はわかりますね。セットが全部、上も下も横も四角に全部つくったんですね。アステアはコロコロ、コロコロ廻り歩いたらいいんですね。そうすると逆さまになったように見えるんですね。

    『恋愛準決勝戦』は、あのダンスもおもしろいですけど、フレッド・アステアですね、スタンリー・ドーネンですね。このスタンリー・ドーネンいう人がもう見事な人で、監督しますね、『掠奪された花嫁』、あれも見事だし、『雨に唄えば』もみんな凄いけど、いっつもジーン・ケリーと協同で監督しますね。
    けど、スタンリー・ドーネンいいますと、ミュージカルの大家ですね。この人の、このアステア見事でしたね。

    このアステアですけど、私はMGMに行った時に玄関でパターンとぶつかったんですね。もう見上げたらアステアなんですね。
    アステアだ、思って「あんた、アステア?」言うたら、「Ofcourse.」言ったんですね。
    「あんたのサインがほしいんです」言うたら、手出してサインしかけたので「あんたは、サインいっても手よりも足のがいい」って言ったら、靴脱ぎだしたんですね。
    「やめて下さい、靴脱がなくていいんですよ」、靴脱いで靴下もとりかけたんで、あんまり悪いから、画用紙置いてその上に「靴の形でいいですからとらせて下さい」言ったら、「Thank you,very much.」って、靴をちゃんと形とらせてくれたんですね。そのぐらい親切な人でした。

    私は日本でアンナ・パブロワ観たこと、アリエンティーナいうカスタネットの女王の話をしたら驚いちゃって、「あんたは偉いな、パブロワ観たのか。僕、パブロワ観てないんだ」なんていうことを言って大騒ぎしたことあるんですね。
    そういうようにしてアステアといっぺんにその場で仲良くなったんですね。

    それで、私が日本に帰った時に、アステアが帝国ホテルに泊まってるって聞いたんですね。
    で、電話かけたんですね。
    「あんたアステアさんでしょ、私、MGMの玄関でばったり会った淀川ですよ」言うたら、「Ofcourse,I remamber.」なんて言ったんですね。
    「私ね、あんた呼びに行ってね、お話が聞きたいんだ」、言ったら、「あんた、どこにいるんだ」言うから、「泰明小学校の前いうところにいるんだよ」、「そこに行く」って言うんですね。

    で、「ホテル出てすぐ、もう五分歩いたら泰明小学校なの。その真向いなの」、言ったら「そんなの簡単に行きます」言うから、「いや、迎えに行きます」って言ったら、「迎えにこなくていい、僕行きます」言うから、ほんとかいなと思って二階から見てたら、チョコチョコ、チョコチョコ本人歩いて来たんです。もう編集部でみんながキャーと言ったんですね。歩いて来たんですよ。

    そうして、「Hello,Mr.YODOGAWA」なんていって、二階の僕の編集部へ上がって控室で、「Thank you,very much.」。
    で、あんたが来てくれてうれしいなあ話した時に、私は意地が悪いから、ここだけの話、フレッド・アステアの頭、じーっと見たんですね。
    アステア、髪の毛ないんですよ、つるつるなんですよ。一回もそれ見せてないんですよ。
    きれーいにウィッグで、こういう風にレースがきれーいについているからわからないんですよ。

    で、フレッド・アステアのインタビューするいったら、一時間待たされるんですよ。ちゃんとかつらつけるんですよ。そういう事を僕いじわるく見たけど、そんな事は一言も言わないで、「あんたのダンスは奇麗、あんたのダンス観てたらびっくり仰天。『ビギン・ザ・ビギン』いいねえ」なんて言ったら、「Oh,yes.」「淀川さん、踊ってあげますよ」、言ったの。びっくりしたね。

    「どうやってして踊るの」言ったら、「そこに、ついたてにカーテンかけあるでしょ、あの棒貸して」って、棒持ってきた。その棒持って、もう完全に一人でダンスしたんですね。
    もう驚いた、目の前でアステアが、私の目の前で生なアステアがダンスしたんですね。
    『ビギン・ザ・ビギン』、奇麗な音楽、鼻でハミングして、私もう胸がドキドキしましたね。

    そういう訳で、フレッド・アステアは本当に私に親切に、親切にみせてくれました。
    「これから、銀座へ行く」言うから、「ついてってやる」言うたら、「No,no.」「自分で勝手に行くのが好きなんだよ」、一人で歩いて行きました。
    だーれもアステアなんか見たってわからないから、悠々と歩いて行きましたけど、あの人見てますと、あの靴が奇麗だね。きれーいな柔らかい靴ね。
    それからベルト、そのベルトが凄いね。ネクタイみたいな細ーい紐でね、腰の横で結んであるんですね。粋な人でしたね。

    フレッド・アステアはほんとに粋な人でしたよ。私は目の前で彼がダンスをしたのを観て、これお願いして頼んだら、何万、何十万円とられるだろう思って、びっくり仰天した。
    フレッド・アステア、目の前で、手のさわれるところでダンスを踊ってくれました。
    これは見事でしたよ、その人の映画ですね。この映画はゆっくり観なさいよ。

    【解説:淀川長治】