THE KING OF KINGS

キング・オブ・キングス

原題: THE KING OF KINGS
監督: セシル・B・デミル
キャスト: H・B・ワーナー/アーネスト・トレンス
製作年: 1927年
製作国: アメリカ

『キング・オブ・キングス』、セシル・D・デミルの『キング・オブ・キングス』、これは、もう余りにも有名ですし、そうしてアメリカでは、ニューイヤーイブ、あるいはサマータイムの最終に必ず『キング・オブ・キングス』を放映します。テレビで。そうすると、みんな、田舎の人は全部この『キング・オブ・キングス』を手を合わして観ます。そのくらいに『キング・オブ・キングス』、デミルの『キング・オブ・キングス』は、アメリカで宗教的にもてはやされている面白い映画なんですね。

それで、デミルはこれをつくって一躍有名になりました。これまででも有名ですけど、世界的に有名になったのは、『キング・オブ・キングス』ですね。

けれども、『キング・オブ・キングス』で、そのキリストになる人、誰だ?H・B・ウォーナーって人がキリストになったんですね。

それで、のちに、ずっとのちに『サンセット大通り』がありましたね。その時にダンスするところがあるんですね。ウィリアム・ホールデンとその、ノーマ・デスモンド、グロリア・スワンソンが、あの隅にね4人がポーカーやっているんですね。ポーカーやっているのを、バスター・キートンとH・Bウォーナーだったんですね。それで、ニューヨーク行きまして、その話しして、「H・Bウォーナーもトランプしましたね」って言ったら、「あの、キリストもね」と言って口、手で押さえて、「失礼しました」って言ったんですね。アメリカでキリストもトランプやっていたなんていうシャレはいけないんですね。もうキリストはもっともっと大事でいけないんですね。そのぐらいにキリスト言うものを、アメリカで、外国で大事にした事が良くわかりましたけど。

デミルと言う人、この人は昔から、皆さんはご存知かどうか、どんなに偉い人だったか、『男性と女性』、もうその他『愚か者の楽園』、どれもこれもみんな見事ですけど。デミルの見事な事をちょっと申しますと、デミルの映画観に行く時には、いっつも下からキャストがずっと上がっていくんです。そのキャストが上がっていくのは、グロリア・スワンソン、トーマス・メ―ハン、ずっとずっと名優が全部下から上がっていく、オールスターキャストですね。それが上がっていく所が見事なんですね。デミルの映画の楽しみは、まずはタイトルですね。その時の伴奏、サイレントですよ。それが、4人ぐらいのバイオリニストが、ピッチカートで♪ランランラン♪いうのでやるのね。それでキャメラが、ずっとタイトル上がっていくから、みんな胸ドキドキするんですね。

そういう訳で、デミルの映画は豪華。豪華だけではなくて、女が観る様につくってあるんですね。全部、どの女もこの女も綺麗なんですね。それで、みんながお風呂入るんですね。その裸になって入る所がすごいんですね。『クレオパトラ』もそれから『男性と女性』も全部お風呂場が綺麗ですね。それから、女の衣装が綺麗ですね。女の靴が綺麗ですね。という訳で、デミルの映画は女が観る映画、女がビックリさせる映画ですね。

デミルに聞いた。「どうしてあんな映画つくるんですか?」
「映画は女が観に行くものですよ。男じゃないですよ。で、女は観に行った時にみんなにね、感激した時に電話かけるんですよ。「良かったよ。あの役は良かったよ」。男は観に行っても、感激しても電話なんかかけませんよ。女ですよ、女ですよ。だから私女の映画つくるんですよ」と言ったのね。

けれども、女の映画つくるけれども、やっぱり女の人は、必ず彼氏連れていく、男連れて行くから、やっぱり男にサービスしなくちゃいけないから、なんでも男の場面が出てくるんです。そんな事を、まあ言っていましたけれども『キング・オブ・キングス』はそんな事抜けて、ストレートにキリストの伝記つくりましたね。

で、デミルはとにかくアメリカでヒッチコックとともに、ポスターに大きく『デミルのクレオパトラ』『デミルのキング・オブ・キングス』と大きく出るんですね。ヒッチコックも『ヒッチコックのダイヤルMを回せ』とかタイトル出るんですね。監督で大きくポスターに出るのは、ヒッチコックとデミルだけですね。

という訳で、デミルと言う人は見事でした。で、デミルのお父さん、お母さんは、俳優学校持っていました。ブロードウェイで。それで学校からはたくさんの俳優が出ましたけれども、デミル自身も映画で、芝居で舞台で役者で出たんですね。ところが、お兄さんのウイリアム・デミルこれが立派なんですね。それも映画監督になりました。ウイリアム・デミルこの人の方がずっと立派な映画つくっていましたけど、地味な映画つくるから、弟のセシル・D・デミルに負けてしまいましたけど、お兄さんのウイリアム・デミルはもっともっと立派な映画つくりましたよ。という訳で、デミルの映画はすごかった。デミルの映画は笑わせて、豪華で女が好きな映画、これがデミルの映画ですね。で、『キング・オブ・キングス』はそういう意味のけて、襟を正して、真面目な映画ですね。『キング・オブ・キングス』、やっぱりデミルですね。

【解説:淀川長治】