OF HUMAN BONDAGE

痴人の愛

原題: OF HUMAN BONDAGE
監督: ジョン・クロムウェル
キャスト: キャスト:ベティ・デイヴィス/レスリー・ハワード
製作年: 1935年
製作国: アメリカ

ベティ・デイヴィスの「痴人の愛」。

「痴人の愛」、愚かな人の愛ですね。
これはサマセット・モームの有名な小説ですね。これをベティ・デイヴィスが主演しました。
ジョン・クロムウェルという立派な監督が映画にしました。
ところが、この「痴人の愛」これは始めベティ・デイヴィスじゃなかったんですね。
いろんなスターがいて、それにジョン・クロムウェルが「あんた出てみなさい」「あんた出てみなさい」。みんな「ノー」「ノー」「ノー」。
女優はみんなこの主役を嫌ったんですね。なぜ嫌ったんだろう。

レストランのウェイトレス、きれいな女。その女が学生に評判がいいんですね。
学生がみんな「今晩映画いっしょに観にいこか」と言ったら「どっちだっていいよ」、そういう女なのね。
若いまじめなまじめな男、映画ではレスリー・ハワードですね、まじめな男がこの女に夢中になって、とうとうこの女をものにしたんですね。
で、よかったのに、この女またプイッと家出しちゃったんですね。
落ち着かないの。一人の男じゃ気に入らないのね。

で、このまじめな男、立派なお医者さんになった人は、もうあきらめて何年かたった。
何年かたったときに、この女が帰ってきたんですね。
「ちょっとあんた、お医者でしょ。あたい診てよ」と言ったんですね。
「どうしたんだ」顔みたらね、顔がむくれて、何だかいっぱいおできができてるんですね。
もう手遅れなんですね。顔がくずれそうになってるんですね。
びっくりして、いっしょうけんめい手当したんですね。
手当したけど「あたい、だめね。あたい、もうだめね。」と言って死んでゆく映画なんですね。

こんなの、みんな嫌がるんですね。
最後は顔がくずれる役なんですね、誰もやらない。
ところがベティ・デイヴィス、それまではわき役。

こんな映画があったんですね。
田舎に都会の女学生がピクニックで行くんですね。
そして雑貨屋へ行って、「ちょっとチョコレートちょうだい」と言うのかと思ったら、この女学生は「ちょいとタバコください」と言ったのね。
“HAVE YOU CIGARETTE”と言ったのね。その“CIGARETTE”の言い方がすごく粋だったんですね。
それがベティ・デイヴィスだったんですね。ベティ・デイヴィスはいつもそんな役やるんですね。
それが「あたい、やります」と言ったんですね。

とうとうベティ・デイヴィスがやることになって、みんなびっくりしたんですね。
そういうわけで「痴人の愛」はベティ・デイヴィスを一躍有名にしたんですね。
その後もキム・ノヴァクだとかいろんな人がやりましたけど、やっぱりベティ・デイヴィスのあくの強い、この女にはかなわなかったのね。

「痴人の愛」は、ほんとに“OF HUMAN BONDAGE”は、サマセット・モームの立派な立派な、面白い面白い小説ですけど、映画でもベティ・デイヴィスを出世させた、ベティ・デイヴィスのスターの入口の問題作品ですね。

【解説:淀川長治】