チャップリン作品集2 『改悟』『失恋』『拳闘』

監督: チャールズ・チャップリン
キャスト: チャールズ・チャップリン
製作年: 1915年-1916年
製作国: アメリカ
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チャップリンの『改悟』『失恋』『拳闘』ですね。
もうこれは、本当にチャップリンを知るのは見事な作品ですね。

で、『拳闘』はもう、御覧になっったらわかるように、拳闘自身がおもしろいんですね。
もう拳闘がなんとも知れん、おもしろいんですね。
で、これは当時のオールスターキャストなんです。
コメディの連中の顔ぶれの花形が、みんな出ているんですね。大騒ぎ。
けど、チャップリンの演技がすごいんですね。

『失恋』は、チャップリンの映画の代表作品ですね。
この作品がチャップリンを知るには最もいいんですね。

で、この映画、チャップリンの『改悟』。この頃私は、チャップリンの映画好きじゃなかったんですね。みんな、なんか恐かったんですね。なんか変だった、変だいうのおかしいですけどね、ただ笑えなかったんですね。
というのは、チャップリンがもうこの頃既に社会の皮肉な事、風刺、それをうんと入れてたんですね、コメディの中に。
で、この映画もそのチャップリンの恐いドラマ、シナリオが入ってるんですね。

チャップリンが牢獄から出てきたんですね、放免されて。
「あぁ、もうこれで自由だ。わしはもう自由になったんだ」喜んだんですね。で、喜んで深呼吸したんですね。そこへ向こうから牧師が来たんですね。
「あっ、向こうから牧師が来た」と思ってると、牧師が側に寄ってきてバイブルをひろげて、チャップリンの頭に手をやって、「おまえは、もうこれから幸せになるんだよ。改悟したんだから、おまえは本当に悟りを開いたんだから。これからおまえの世界は広がっていくよ。おまえは真人間になったんだよ」そういう事を言ったんで、チャップリンはね、もう涙がポロポロ出てきたんです。ありがたくて、ありがたくて。

けど、ハンカチがないから、牧師さんの髭で眼を拭いたりするんですね。
チャップリン喜んで、「あぁ良かったなぁ。ああいうに悟しを受けたから、良かったなぁ。」
改めて、喜んで歩いて歩いていく道で、一人の酔っ払いが、なんか電柱にぶらさがって懐中時計をぶらんぶらんしとったんですね。で、チャップリンまた盗ろうと思ったんですね。
けど、さっき悟し聞いたところだから、もう盗ったらイカん、盗ったらイカんよと盗らないで、ぶらんぶらんしてるの。

手出したら盗れるのに盗らないで、八百屋行って、あのリンゴくれ、あのバナナくれといって囓っては「これはまずい、あれはまずい」ってやってたから、その八百屋さんが怒る。「おまえ、なんだ。金持ってるのか」言うと、チャップリン、「うん、持ってるよ」。

牢獄で働いて働いて、少し貯金が出来たんですね、牢獄の中で。
それを出そうと思ったら、ぜんぜんなかったんですね。
「えっ!? 金がない、金がない」「馬鹿野郎、おまえはただで噛りやがって、出てけ」って怒られて、表に出て元の方へ帰ってきたら、途中であのぶらんぶらん、ぶらんぶらん時計が揺れてった時計がなくなってるんですね。

「あ、泥棒だったんだ。これも泥棒だったんだ。あっ、あの牧師さんが泥棒か。うーん」というような映画なんですね。
恐かった。

子供ながら観て、映画の中で今まで観た映画の中で、牧師が泥棒だいうのは一本もなかった。この映画一本だけ。
チャップリンはいかにすごい鋭い眼で映画観てたか、そしてよく検閲がこれ通したな、という風な『改悟』は、見事なチャップリンの何とも知れん社会への針ですね。針を突き刺した映画でしたね。

【解説:淀川長治】