BLOOD AND SAND

血と砂

原題: BLOOD AND SAND
監督: フレッド・ニブロ
キャスト: ルドルフ・ヴァレンチノ/ニタ・ナルディ
製作年: 1922年
製作国: アメリカ
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ルドルフ・ヴァレンチノ、御存じですか。
サイレントの最高の美男子ですね。

そして、この『血と砂』。これがヴァレンチノの代表作品ですね。
共演がニタ・ナルディ。とっても妖艶ないかにも毒婦タイプの女、それとライラ・リー、やさしい女が共演しました。
『血と砂』は闘牛士の話ですね。闘牛士が、もう本当に男の中の男だけど、最後の最後は群集の前で牛に突かれて死んじゃう。いかにも可哀相な映画でしたね。

このルドルフ・ヴァレンチノ、サイレントの大スター。
わずか、三十一歳で亡くなりました。
けれどもヴァレンチノはほんとに、あらゆる世界中の女性に好かれました。
そうして最後に、一番最後に結婚するぎりぎりまで決まった女優が、ポーラ・ネグリでした。

そうして三十一歳で、ニューヨークの病院で死んだ時に、もう泣いて泣いて泣いて、何百人、何千人近い女性が葬列に後ろからどんどん、どんどん付いて行って、騎馬隊が整理したけど、その後に残った女の靴が十足あったそうです、散らばって。
もうあんまり慌てて靴が脱げてまで後追いかけたんですね。
ヴァレンチノは、そんなハンサムでした。

で、ヴァレンチノはイタリーで、お母さんがフランスで、お父さんはロシア。アメリカへ来た時には本当に貧乏人で、公園の植木屋さんなったり、いろんな事して、とうとうジゴロになりまして転職。ダンスして女から金貰う、そういうことやって、どんどん、どんどん有名になろうとあがいたヴァレンチノでしたね。

ヴァレンチノには三人も四人も、沢山の相手の女が付きましたけど、ヴァレンチノはいつでも寂しい人でした。
ナターシャ・ランボーという美術家に抱えられて、ずーっと有名になっていったんだけど、この人はホモセクシャル、女嫌いだから余計おもしろかったんですね。

一度この人はセットで芝居してると、電気屋さんが上からパンジーを投げて来たんです。
そのパンジーというのは、男のお尻の意味なんですね。
それでヴァレンチノはとっても怒って拳闘したことがあるんですね、おれは男だって。

そういう風なヴァレンチノ、けれどもサイレント、ほんとに一言も言葉を言わないで、サイレントで亡くなりました。
私はロサンゼルスで、この人のレコード聴きました。
それまで声というもの一回も聴いたことない。聴いた時、タンゴ歌いました、二曲。
もうそのタンゴ、聴いた時ぞーっとする程下手でした、声が悪かった。
けれども、とうとう一言も声を出さないで亡くなったヴァレンチノ、本当に幸せでした。

【解説:淀川長治】