THE CHAMP
原題: | THE CHAMP |
---|---|
監督: | キング・ヴィダー |
キャスト: | ウォーレス・ビアリー |
製作年: | 1931年 |
製作国: | アメリカ |
チャンプ、チャンピオンですね。この映画、キング・ヴィダー。
キング・ヴィダーいう人は非常にね、柔らかくて優しくて、人情あふれた映画をつくる名監督ですね。キング・ヴィダーいう人はみんな、当時の映画評価する人は襟を正して観に行ったんですね。そういう訳でキング・ヴィダーが『チャンプ』をつくる、はあーと、みんながね、どういう映画つくるんだろう思ったんですね。『チャンプ』言うのはチャンピオンの事ですね。チャンピオンの事を『チャンプ』と言う。これは下町の言葉なのね。なんとも知れないね、「うん、あいつ花形だなーとかね、花だな」とかそういう感じなのね。
『チャンプ』で、どんな話か、ウォーレス・ビアリーとジャッキ・クーパーですか、ジャッキ・クーパーが出るんですね。この飲んだくれのチャンピオンですね。かつては有名だったチャンピオン、今はもう崩れているんですね。酒呑んで、酒呑んで、酒呑んで、それをジャッキ・クーパーのこの子どもが、「おとっつあん、おとっつあん、私の誇りのおとっつあん、頑張れ、頑張れ、頑張れ」そういう親子の話。それが良いんですね。けど、これにはアイリン・リッチという綺麗な綺麗な中年のおばさんの役者、これ有名ですね。それが脇から、このウォーレス・ビアリーの『チャンプ』を愛して、温かく守っているような映画なんですけど、これはキング・ヴィダーの名作でした。で、私達はその『チャンプ』いう、おとっつあんが呑んだくれで、子どもが「おとっつあんは誇り、おとっつあんはもう本当に世界一偉い人」と思っているのが崩れていく所が、すごく哀しくかったね。『チャンプ』は、そういう映画でしたね。
で、キング・ヴィダーは本当に下町のそういう親子の感じを良く出しました。
ところが、これがもういっぺん、フランコ・ゼフィレッリが映画にしましたね。フランコ・ゼフィレッリ、あの『ロミオとジュリエット』の監督ですね。あれが映画にしました。その時には、そうですね、このジョン・ヴォイトがこれが『チャンプ』演ったんですね。それからね、なんかもう一人子供が相手役演りましたけど、これは甘ったらしくて、甘ったらしくて、フランコ・ゼフィレッリというのは本当に甘い人なのね。『ロミオとジュリエット』はいいけどね、なんか甘く、甘くね、子供がね「お父ちゃん、頑張ってー」なんて泣く所なんかオーバーアクトなんですね。
もうちょっとね、頑張んのをね、もう少しさっぱりやればいいなんて思いました。 けれども、きっと皆さんが、フランコ・ゼフィレッリの『チャンプ』と思います。フランコ・ゼフィレッリの『チャンプ』もストーリーは良いからご覧になったら涙が出るでしょう。けれども本当はキング・ヴィダーのウォーレス・ビアリーとジャッキ・クーパーの『チャンプ』ご覧になったら、「はあーアメリカ映画がこんな良い映画をつくったんだなー」とお思いになるでしょう。ところが酔っぱらって、昨日から二日酔いの男が試合のところで、観ていてね、目を伏せた。可哀想で。子どもがね、おとっつあんが無様に倒れるところ見てね、「おとっつあん、おとっつあん」言う所がすごいですね。「パパ―、パパ―」言う所がね。という訳で、あらくれの、あらくれのなんとも知れんもう酒呑みの、呑んだくれと、可愛い子どもの映画なんですね。
で、おっかさんいないのね、そういう訳で、アイリ・リッチのお母さんは離れちゃっているのね、もう。そういう訳で、いかにも親子の感じ、下町の感じ、チャンピオンは『チャンプ』と言うふうに、やくざ言葉で言うふうにいかにも下町の感じが見事でした。で、フランコ・ゼフィレッリは、これもういっぺん映画にしました。やっぱりフランコ・ゼフィレッリは『ロミオとジュリエット』の監督ですから一生懸命つくりましたね、見事でしたね。見事でしたけどキング・ヴィダーのあの名作を頭に入れていると、甘いなーと思いましたけれども、『チャンプ』この映画自身は良いスト―リーだから、どの映画、どっちもご覧になっても負けないくらいお泣きになるでしょう。
【解説:淀川長治】