THE SOUTHERNER
原題: | THE SOUTHERNER |
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監督: | ジャン・ルノワール |
キャスト: | ザカリー・スコット/ベティ・フィールド |
製作年: | 1945年 |
製作国: | アメリカ |
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『南部の人』『The Southerner』これはアメリカ映画ですけど監督はジャン・ルノワールなんですね。あの『どん底』『大いなる幻影』のあのジャン・ルノワールがアメリカで『南部の人』と言う作品を映画にしたんですね。面白いですね。
どうしてアメリカ行ったの?と言いますのはフランスで革命があったりして色々ファッショ的になってきたのでアメリカ逃げて行ったんですね。で、ジャン・ルノワールはアメリカで先ず『南部の人』を作ったんですね。私はアメリカのロサンゼルスで喜んで飛んでこれ観に行きましたら、良いんだねー。ジョン・フォードが『怒りの葡萄』あれは凄いので非常に貧しい農夫、貧しい農夫を厳しい厳しい感じで映画にしていました。ところがジャン・ルノワールは『南部の人』田舎の本当の農家ですね、貧しい姿にやわらかいやわらかーい愛情をもって映画にしているんですね。それがとっても面白かったですね。
で、サガリ―・スコットとかエステル・テイラーとかそれから、そういうの出ていますけど、それよりも一軒の家があってそこに井戸水が無いので隣の、隣と言っても南部のその田舎ですから少し離れているの。そこへ水借りに行ったら何くれるか?と言うのね。ただではやらないと。そういう何か知らないけどケチくさいケチくさいね、南部の田舎の話がユーモアのある描き方で描いています。と言ってニコニコ笑う形じゃないの。ほんのりと可笑しいなーと言う形で。
そうしてこの『南部の人』はどういう家庭かというと貧しい貧しいお百姓さんでそうして若い女と結婚しているんですけど、おばあちゃんも一緒に暮らしているの。そうすると小さな部屋だから一間を二つに分けているのね。田舎だから。そうして二人が寝ているのをおばあさんがいつも覗くのね。じーっと。と、二人は一緒におるけどSEXが出来ないのね。おばあさんがずっと見ているの。で、おばあちゃん寝なさいと言うと、ハイハイと寝るんだけど覗きに来るのね。
という風な面白い面白い田舎の話だけど、おばあさんはいつも表出て野葡萄をあっちの葡萄、こっちの葡萄、そういうの採って来てはプチプチ食べているのね。そういう話ですけど隣のすぐ隣の家庭、家庭でなく農家がケチでケチで、そのオヤジがケチでいじめるのね。そういう話をやわらかーい感じで出しているんですね。
で、隣のオヤジをJ・キャロル・ナイシュが演ってるのね。これが又上手いんだね。J・キャロル・ナイシュを私はハリウッドのスタジオでフリッツ・ライグの作品の『クラッシュ・バイ・ナイト』(夜の衝突)、これで観たんですね。で、J・キャロル・ナイシュが出てるんです。「あっ!『南部の人』のあの人だ!」って観てましたの。そうしたらこの人が「俺はなー、あの時居なかったら…」と言う長い台詞をつまずくのね。いつもつまずくの、間違うのね。「あっしまった!」もういっぺんやり直し。監督がフリッツ・ラングいう有名な監督ですね。じーっと見て何回も何回も何回もやり直しするのね。で、しまいにはそのJ・キャロル・ナイシュ『南部の人』に出てたこの男、この男が「あー辛い辛い辛い、お母さん助けて、お母さん助けて」と手を合わせているのね。それなのに監督は横向いてんのね。慰めないのね。あー辛い!8回目にやっとパッと通った。みんなが手を叩いた。J・キャロル・ナイシュが喜んでサンキュー、サンキューと言った。で、僕はそのフリッツ・ラング監督に言ったのね。「あんなに苦しんでいるんだから、一回ぐらい頑張れよとか、いいからやれよ。と言ってあげたらどう?」とフリッツ・ラングに言ったら「それを言ったらこれはなんぼたっても駄目なの。甘えちゃって。言わないで黙っているからやれたの」そう言って監督そう申しましたが、監督がそう言う様になかなか映画の監督いうのも難しいんですね。
という様な訳で話が飛びましたけど『南部の人』はルノワールのアメリカの最も見事な映画でジョン・・フォードが厳しい厳しい南部の、南部じゃない西部の貧しい百姓を映画にしたのにこの人は温かい農家をさびしい田舎、貧しい家庭、それをやわらかい感じで出しました。ルノワールは立派な人でしたね。
【解説:淀川長治】