DER BLAUE ENGEL

嘆きの天使

原題: DER BLAUE ENGEL
監督: ジョセフ・フォン・スタンバーグ
キャスト: マレーネ・ディートリッヒ/エミール・ヤニングス
製作年: 1930年
製作国: ドイツ
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これから『嘆きの天使』のお話をしましょうね。

『嘆きの天使』これはジョセフ・フォン・スタンバーグ、あの『モロッコ』の監督とディートリッヒ、この初めての顔合わせ作品ですね。
スタンバーグという人はアメリカで2、3本撮りました。
そうしてチャップリンの推薦受けました。

『サルベーション・ハンタース』という映画をアメリカで撮ろうとしましたが上手くいかない。それで、ドイツで何かいい映画を撮ろうとしました。
そこに、舞台でマレーネ・ディートリッヒというのが芝居演ってましてね。
それを観て、これで1本撮ろうと思いましてディートリッヒに「あんた、こういう映画に出てくれませんか」言ったら、「いいですよ」と言ったんです。
それが『嘆きの天使』、ブルー・エンジェル。

どんな映画か。
ローラ、ローラという悪い女がいるんですね。
それが大学の教授を誘惑して、さんざん、さんざんいじめる話なんですね。
ローラいう、いかにも悪い女ですね、その役を「あんたやってくれませんか」と言った。
ディートリッヒは「やりますよ」と言ったのね。

スタンバーグは、その『嘆きの天使』に、ローラいう役どころでディートリッヒを使った。
ディートリッヒは綺麗な足なんですね。淋しい舞台、汚い舞台が、その足で見事に晴ればれしくなったんですね。

高校の生徒、男の子がみんな大騒ぎするんですね、このローラいうのに。
そうしてブロマイド持ってるんですね。そのブロマイド、もうみんなが持ち歩いてるんですね。
で、学校の先生、エミール・ヤニングスが扮してる先生が、「何持ってるんだ」言った時、プロマイド見たんですね。

女の姿なんですね。で、前のスカートが羽根なんですね。
それでふーっと吹いたらパァーと前がめくれるんですね。
「こんないやらしいもの、よくもおまえら持ってるな」と怒って、「自分もいっぺん、ローラ見てやる」言って、密かにその舞台を観に行くんですね。
そこがおもしろいんですけどね。

その時にローラが、綺麗な足で出てきて、そうして椅子をずっと手前に置いて、椅子のもたれる所を前に置いて、両足を前ひっぱって、「フォーリン、ラヴァーゲン、ネヴァ、ウォンテッド・・」と歌うんですね。
さぁ、その綺麗な事、両足の綺麗な事、先生はいっぺんに参っちゃったんですね。

この映画は、一躍マレーネ・ディートリッヒを有名にしました。
それと同時に、「この監督は誰ですか?」「スタンバーグ」「ん、これイケるな」。
ハリウッドが二人を呼んだんですね。

で、アメリカから呼ばれた。ちょうどディートリッヒがドイツにいた頃は、最もドイツがモダン文化の時代だったから、非常に粋だったんですね。
それがアメリカに来たら、ハリウッドの女優がみんなびっくりしたんですね。
マレーネ・ディートリッヒ、あのハンドバック、あのハイヒール、あのコート、すごいねぇ、言って。

で、マレーネ・ディートリッヒの部屋に行ったんですね、みんなが。
そうすると大きな壁、部屋の壁が全部鏡なんですね。
びっくりしたんですね。モダン・スタイル。

『嘆きの天使』ではローラで、なんとも性の悪いくすぶった女役だったディートリッヒが、アメリカに来た時には、『モロッコ』ですね。いっぺんに有名になったんですね、『モロッコ』で。

ディートリッヒは男装で歌、歌ったんですね。
きれいな男のスタイルで、シルクハット持って、白いイブニング着て、そして歩きながら、あの『モロッコ』の歌を歌って、そうしてお客の中の女の客に接吻したんですね。
えらい評判になって、ディートリッヒは一躍有名になりました。

それで監督はスタンバーグです。
スタンバーグ、アメリカに来てすっかりアメリカ流になりまして『ブロンド・ヴィナス』、これなんかは、もう見事な映画ね。
最初出てくるのは、いかにもアフリカの音楽で、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、いう音楽で大きなゴリラが出てきたんですね。
金の毛をいっぱいつけたゴリラが出てきて踊るんですね。

わぁー思ってると、そのゴリラが腕の毛を取っちゃうんですね。
綺麗な手ですね。腕の毛を取ったら、綺麗な手なんですね。
ゴリラの両手が綺麗な女の手、ブレスレット付けてる。
今度は足を取ったんですね、足の毛を取ったんですね。
それがディートリッヒの登場の見事なスタイルで、『ブロンド・ヴィナス』もすごかった。

それから『間諜X27』とか、ディートリッヒはどんどんどんどん有名になりました。
と同時にスタンバーグも一躍有名になりました。

【解説:淀川長治】