VAMPYR
原題: | VAMPYR |
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監督: | カール・ドライヤー |
キャスト: | ジュリアン・ウェスト/アンリエット・ジェラール |
製作年: | 1932年 |
製作国: | ドイツ/フランス |
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吸血鬼『ヴァンパイヤ』これね、デンマークの、カール・ドライヤー。あの監督の作品ですから、一癖も二癖もあるのね~。この監督は、非常~に、目で見せて、怖がらす作品を作りますね~。
『ヴァンパイヤ』、この時に、初めて私たちは、映画で吸血鬼と言うのを知りました。
この映画は、人の首にかみついて、血を吸うようなヴァンパイヤじゃないの。吸血鬼が、確かにこの村に来た!!みんなで、大騒ぎ。探すんです。吸血鬼が逃げ回るんです。えらい映画ですね。吸血鬼が逃げ回るの。
それで、吸血鬼がね、あの~農夫の、この道具のある、この~農具のいっぱいある所に、逃げ込むのね。で、じ~っと隠れているとね、ランプでね、壁にね、クワとか、それから、車輪とか、色んなの映ってるのね。その壁に映ってる車輪、あるいは、クワ、、なんかそんなもんがね、キラキラキラ動くのね。ヴァンパイヤ、じっ~っと隠れてるのに、影だけがうごくのね。それだけが何とも知れん怖かったの。この監督の感覚ですね。何とも怖かった。
で、みんなが、向こうに居るぞ! 向こうに居るぞ!ってゆうのわかってきて、ヴァンパイヤはまた逃げなくちゃならない。こういうヴァンパイヤを観た事が無かった。逃げるの。あちこち逃げるんです。逃げるけどね、しまいに行く所がないからね、材木を切る所に入っちゃったのね。材木の粉がず~っと落ちていく穴の中へ飛び込んじゃったのね。その中でじっ~としておったら、粉が上から、上から、上から、かぶさって、かぶさって、かぶさって、吸血鬼の頭まで、粉で隠れちゃったのね。で、その粉がジクジク、ジクジク動くのね。まだ、生きてるのね。生き埋めだね。そのジクジク動く所が、怖いんだね~。
みんなが殴り殺しに叩いて、あるいはピストルでで殺すんだったらいいけど、生き埋めだ。しかも粉なの。土じゃないのね。材木の粉、カンナくずいっぱい、そん中にはまって、ジクジク動くの。ずっと上から見てるの。見ている残酷さ。吸血鬼が殺される、死ぬ、怖さ。それが、凄いな~。
死にました。死体なった。みんなで、担ぎだした。もう完全に死んだ。それで、棺桶に入れた。もう、これでいいわ、これで死んだゆうので、みんなでお葬式だ。吸血鬼のお葬式。キャメラ上から、撮ってるの。外国のお葬式は、棺桶の上の窓の所が硝子なのね。開いてるのね、棺桶がね。硝子で。上から撮ってるのね。で、吸血鬼がね、もう死体になって寝てるのね。ず~っと運んでる所、上からず~っと撮ってくと硝子の中の、吸血鬼の死体の顔の目が、グッと開くのね。おっかないね~。担いでる人は。まさか、吸血鬼が、棺桶の中で、生きてるとは思わないのね。
そういう所が、この監督の何とも知れん、感覚ですね~。いかにも怖がる所がね、目で見て、つまり、映画というものが、こんなに、力があるんだよ。ゆうとこ、見せてるんですね~。
小説では、こういう名文で書くだろうし、音楽だったら、怖~くね、やるだろうけど、この監督は、目で見て、目で見て、目で見て、これが怖いだろ!怖いだろ!と言う所を見せてますね~。
そういう訳で、あらゆる吸血鬼映画、ヴァンパイヤ映画の中で、最高なのがこの監督の映画ですね~。カール・ドライヤー。いかにも、いかにも、カール・ドライヤーの感覚、出しましたね~。
【解説:淀川長治】