SHERLOCK, JR.

キートンの探偵学入門

原題: SHERLOCK, JR.
監督: バスター・キートン
キャスト: バスター・キートン/ジョ―・ロバーツ
製作年: 1921年
製作国: アメリカ
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探偵学入門。

これではちょっとおわかりになりませんね。
バスター・キートンの探偵学入門。
ああそうかと思い出したでしょう? 後にウッディ・アレンが、このまねしたね。
このバスター・キートン、バタバタ喜劇がたくさんある中、非常にハイクラスのセンスのある人なんですね。

で、この映画では映写技師なんですね。
映写技師が映画写してる最中に、夢の中で画面の中に入り込んでいったの。歩いて、歩いて、画面の中に入っちゃたのね。
そして、シャーロック・ホームズみたいなまねをして、自分と女とのあいだの犯罪とか、そんなもの調べて、またもとに帰ってくる、 不思議な、不思議な映画なんですね。

映画の画面の中に映写技師が入るなんて考えられない頃に、キートンはそんなもの考えたんですね。キートンのコメディーは、どこかフランス的なんですね。どこか粋なんですね。

キートン、非常に面白い人で、この探偵学入門、これを真似しているのがウッディ・アレンですね。ウッディ・アレンが、後にこれと同じようなことしましたね。画面の中に入っていくような。

そういうの、早くも、早くも、1924年にキートンがやっちゃってるんですね。
キートンの映画、みんな粋なんですね。
チャップリンは非常にわかりやすく見せる人間映画ですけど、キートンの方はどっちかいうとマンガですね。フランスのマンガみたいな感じがありますね。

後にキートンが亡くなってから、奥さんに会いましたの。日本に来たの、奥さんが。
「あら!キートン。あんた、キートンの奥さんですか?」 「そうですよ」
何にもスターぶらない、いばらない奥さんでしたよ。

キートンってどんな男でしたかって聞くと、
「あーあ、キートンさん… あたしの主人… のんきな男でね、あの人は。とにかく、パーティーっていったら、みんなの頭をたたいたりするんですよ。面白い人でね。笑うんですよ。映画で、一回も笑いませんけど、笑うんですよ。」

「それでね、ごはん食べてるとね、隣近所の男の子がノックするんですね。家のドアを。
はーい、なんですか?っていったら、 おじさん野球しようっていうんですね。ごはん食べてる最中にね。キートンはごはん止めてね、その子供の野球の相手をやるんですね。そういう人だったんです、あの人は。いい人だったんですよ、非常に。」
家でも外でも非常にいい人だったらしいですね。

一時は大きな大きな、ものすごい家をもっていたんですね。
ノーマ・タルマッジの妹のコンスタンス・タルマッジのそのまた妹の、 ナタリー・タルマッジの旦那さんになったんですね。大金持ちですね。

だから、大きな、大きな家にすんだんですね。
『ゴッドファーザー』でプロデューサーの家がうつりますよね。
あの、2階、3階ある、噴水のある大邸宅がうつりますね。
あれじつはバスター・キートンの住んでた家なんですね。

バスター・キートンはチャップリン同様にすごく有名だったんですね。
バスター・キートンは後にチャップリンと2人で演技をしましたね。
『ライムライト』かなんかでね。
あれみたとき涙が出ましたね。なつかしい2人だなあと思って。

という訳で、バスター・キートンはやっぱり代表的な有名な俳優ですね。
この人は、おとうさんもおかあさんも俳優。
1歳か2歳のときに舞台に出てきて、1歳の赤ちゃんの頃、 お母さんがお父さんのほうへパーンとなげたんですね。お父さん、またそのパーンとなげたんです、 お母さんに。
警察に怒られたんですね。生まれてまだ20日ぐらいの子をね、 舞台で投げたり受け取ったりしてはだめですって。

それくらいに、もう生まれたときから舞台に出ていた人で、 なんかしらないけど、はしごに登る時ひっくりかえって落ちたんですね。6歳の頃、バチャーンと。
あっと思ったら、笑いもせず泣きもせず、 すーっと楽屋の方に入っていったんですね。
そうすると1人のアメリカ兵が、バスター!っていったんですね。
「おい!やったぞっ!(バスター!)」といったんですね。
バスターという名前がでたんですね。これがちょうど芸名になったんですね。

【解説:淀川長治】