監督: | チャールズ・チャップリン |
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キャスト: | チャールズ・チャップリン |
製作年: | 1916年 |
製作国: | アメリカ |
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チャップリンの『消防夫』と『番頭』。
これはいいですよ。
『消防夫』、これ観た時に「チャップリンいう人はこういうコメディを作る人か」言いながら、私はチャップリンがいやらしい人だなと思ったんですね。
それはあんまりにも皮肉だったんですね。
消防自動車がおって、その消防夫が5、6人、上でたむろしてると、カランカラン、カランカラン、火事なんですね。
さぁ火事だ、行こう行こう、いう時にチャップリンとその連中は、「まずお紅茶を飲みます」、お紅茶飲んで、「爪磨きます」、爪磨いて、「さぁ、これから行きます」って、みんなゆっくり出ていく所が『消防夫』の最初のシーンですね。
あれ観てね、なんちゅう皮肉な事だろう、笑えないなと思ってチャップリン映画はあんまり好きじゃなかったんですね。
そういうなわけで、この映画はあまり好きじゃなかった。
ところが、だんだんだんだん、チャップリンがわかってきたんですね。
そうした時に、チャップリンのポーン・ショップ『質屋』ですね、それが来たんですね。
その頃、子供の頃、私は質屋いうのがあんまりよくわからなかったけれど、入り口に3つの球がぶらさがっているんですね、球がね。あぁ、3つの球がぶらさがってる。あの3つの球いうのが、あの質屋のマークだいうのがわかった。それも、チャップリンの映画でわかったんですね。『番頭』ですね。
この番頭いうのが、そこの娘には色目使って、主人にはペコペコ言って、仲間には、もう冷たい冷たい態度をとる、いやな、いやな番頭なんですね。
それが番台でおりますと貧しい貧しい人がやって来て、この金魚、この金魚で少し飯代を下さい言うのね。
で、チャップリンは、黙ってその金魚をつまむんですね。
金魚鉢に入った金魚をつまんで、ブラシでこうやるんですね。「こんな物だめだ。さぁ、持って帰れ」、かわいそうにね。金魚をブラシでさわって、こんな物だめだ。
次にね、目覚まし時計を持ってきた、目覚まし時計。
「これでね、いくらか下さいね」、みんな一日のパン代もないんですね。
それ見て、チャップリンは「この時計動くのか」言って、カチカチッ、カチカチッ、あらゆるところ調べまわって、とうとう「中まで見ないと」ってバネまで出しちゃって、バラバラになったんですね。
で、「こんな物いらない」と返したんですね。
もう何とも知れん、恐いチャップリンですね。
で、私はこの『番頭』を恐いなと思ったのは、チャップリンが子供の頃、どんなにつらい思いをしたか、どんなにつらい、貧乏生活したか、その時にチャップリンが言った、「こういう質屋があったんだよ。それがオーバーに描かれてるんだよ、冷たいんだよ、番頭は」というようなことも思い出しました。この質屋の番頭、これが後々後々まで頭の中にあった時に、チャップリンと私、神戸で会いました。
「チャップリンが3分間だけ、あんたと会ってやる、甲板で」船長がそう言ってくれて、私はチャップリンに会いました。
「あんたの『移民』『サニー・サイド』『担え銃』みんな観ましたよ」
「イエス、サンキュー、サンキュー、サンキュー」。
けど、このサンキューはただのサンキューだと思ったんですね。
「本当に観てるんだから、私は本当に観てる。『サニー・サイド』も『イージー・ストリート』もみんな観てるんだ」と言ったんですね。
チャップリンは「そうか、そりゃいいな」。
僕は我慢出来なくなって、ポーン・ショップ、今日のこの番頭の真似したんですね。
手振って、時計をつぶすとこやったんですね。
チャップリン、目の前でやったんですね。
世界中でチャップリンの目の前でチャップリンの真似したの、僕だけだと思いますね。
僕は27歳ですか、チャップリンは41歳ですか、そのチャップリンに夢中になって夢中になって、チャップリンの目の前でチャップリンの真似したんですね。
チャップリン、じっと見てたんですね。
見た後で、「カム、カム」、僕を船室に入れたんですね。
というぐらい、本当にチャップリンの映画観てるな、この人は観てるな、いうことがわかってくれたんですね。それがこの『番頭』でしたね。
【解説:淀川長治】