監督: | チャールズ・チャップリン |
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キャスト: | チャールズ・チャップリン |
製作年: | 1917年 |
製作国: | アメリカ |
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チャップリンの『霊泉』『移民』『冒険』、おもしろいですね、みんな大好きな作品ですね。
『霊泉』といいますか、なんだろう思いますけど、治療する温泉ですね。向こうは温泉のことを霊泉とかいうんですね。身体治すのでね。
弱いチャップリンが大きな男に、うまぁく愛嬌たっぷりで騙しちゃう映画で、チャップリンのちょっと女形みたいな映画なんですね。
ポーズが全部、女形のポーズですね。チャップリンはかつて、一回だけ女になった映画あるんです、女装というのが。
あの時はチャップリン、ヒゲとりました。綺麗な女になったんですよ。
チャップリン、どうもちょっとそういう女の気がありますね。
ポーズがいかにもね、誘惑的なポーズとりますね。
『霊泉』はそのチャップリンですね。
いかにもね、女らしいカッコしてね、相手の大きな男をやっつけちゃう映画なんですね。
それから、その他に『移民』がありますね。
『移民』は、チャップリンが、いよいよ本格的にアメリカ映画に入っていくような感じの見事な作品ですね。
『移民』というのは、みんなが金がなくてアメリカへ、アメリカへ行く話なんですね。
チャップリンはアメリカに行く時に金がなかったんだけど、その船の中の地下で博打やったんです。仲間みんなと、移民の仲間と。
チャップリン一人、ボロ儲けしちゃったんですね。
それで上がってきて、「良かった、俺は金持ちになった」思った時に、向こうでお母さんと娘が抱き合って寝てたんですね。お母さんもその娘さんも、いかにもかわいそうな顔してるんですね、お腹がすいたような顔してるんですね。
しかも抱き合ってるんですね、これは移民ですね。
当時移民はみんな金がなくて、アイルランドの移民はニューヨークへ、ニューヨークへ行くんですね。
そういうわけで、「あぁ、このお母さんと娘もかわいそうなもんだな。俺、ここにいっぱい金もっとんな、少しやろうか」と思って、娘のポケットにその金入れたんですね。
チャップリン、全部入れちゃったんですね、ひとかたまりを全部。
考えたら、全部入れたら俺食えねえから思ってちょろっと盗んだんですね。それをおまわりに見つけられて、甲板のおまわりに、「こらーっ」って怒られて、「なんだおまえはっ」って言った時に、目が覚めたその娘さんは、「いえいえ、これは私のお金じゃありません。このお方が私にめぐんで下さったお金です」言うので、チャップリン助かったんですね。
チャップリンがそういう風な場面を見せるようになったのは、アメリカ行ってからですね。
チャップリンのその『移民』では、自由の国アメリカへ行くんだ、今度はアメリカに行くんだいう事になって、向こうの方に自由の女神の円形が映ってきたんですね。
「おーい、自由の女神だぞ、女神だぞ」、きゃあーと言ってみんな出てきて、甲板にもたれるから、船がちょっとかたむいたんですね。
「ばかやろっおまえら、何するんだ」言って、みんなロープでキューッと元に戻されたんですね。自由の国、自由の国の第一歩は、いかにも不自由な国だったんですね。
そういうとこでチャップリンの皮肉がよく出てたんですね。
そういうわけで、チャップリンの『霊泉』も、チャップリン『移民』も、それから『冒険』も見事ですね。
『冒険』、これ特におもしろいのは、親子が、お母さんと娘がおぼれそうになったのをチャップリンが見つけて、ばぁーんって飛び込んで、それでどっちを助ければいいか見るんですね。やっぱり娘の方がいいなぁって娘を助けてね。お母さんが「私も助けてよ、助けてよ」いう所がおもしろいんですけど、この映画で一番おもしろいのは、この映画に何でもない1カット、2カットぐらい出てくるんですけど、それが有名なチャップリンの番頭さんで、20年間一緒にずっとチャップリンと暮らしてきた、高野虎市さんなんですね。
高野虎市さんが運転手になって1カット出たんですね。
それで、奥さんが怒ったんですね。「何であんた、映画なんか出るんですか」「チャップリンが出ろと言ったから出たんだ」「なんのためにそんな役者みたいな、そんなひもじい、そんな汚い、役やったんですか。あんたはちゃんと立派な、立派な日本人なのに」なんて言ったこと、チャップリンが僕に言いましたけど、虎市の奥さんはそんな人だったんですね。
チャップリンと虎市さん、これはもう古い古い仲間で、僕は虎市さんに何度も会いましたけど、虎市さんも立派な立派なチャップリンの最高の番頭さんでしたね。
その虎市さん自身が1カット出たいうので、この作品は珍しいですよ。
【解説:淀川長治】