THE RAIN

原題: THE RAIN
監督: ルイス・マイルストン
キャスト: ジョーン・クロフォード/ウォルター・ヒューストン
製作年: 1932年
製作国: アメリカ
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はい、ジョーン・クロフォード主演、ルイス・マイルストン監督の『雨』、この話をしましょうね。

この話は大事なんですよ。これはサマセット・モームの有名な小説で舞台劇になって、もうあらゆる女優がこれをやったんです。サディ・トンプソンそういう主役の女の映画ですね。グロリア・スワンソンも昔やりましたよ。もう色んな人がこれやりました。もう名作。
この『雨』をジョーン・クロフォードやったんですね。当時ジョーン・クロフォードは『雨』のサディをやる様な女優じゃなかったんですね。もっともっとモダンなダンスをやる女だったんですね。女優だったんですね。それが『雨』で一躍サディをやると言うので、ええーっとみんなびっくりしたぐらいの大役なんです。
で、みなさんご存知と思いますが『グランドホテル』でガルボと喧嘩したんですね。それで泣いてサミエル・ゴールデンの所行きまして、有名なプロデューサーの。「私ね、どうしても立派な役やりたいんです。お願いします。」「それでは、サディ・・トンプソンをやろう。」ジョーン・クロフォード泣いて喜んだんですね。それが『雨』ですね。
だからジョーン・クロフォードの今日までの最も代表的な映画が『雨』ですね。だから、ジョーン・クロフォードの似顔絵を描く漫画家は、みんなサディ・トンプソンのスタイルの絵を描きますね。もう原色の派手な派手な上着着ている女ね。ストッキングの黒のね。
という風な訳で『雨』の面白さは見事でしたけど、ここでちょっと言いますと『雨』はタイトルから見事だったんですね。一番最初タイトルは、入道雲、次はヤシの葉っぱ、次は海、全部南の島の凄い凄い景色。そうしてそこに“THE RAIN”いうタイトルが出るんですね。その時に大きな大きな芋の葉っぱにポツンポツンと雨の足跡が出るんですね。雨の一粒一粒が。そうしてキャメラがどんどんどんどん、もう雨の中入って入って一軒の家の中に入っていく所から始まるんですけど、そのスタイルの凄かった事。見事なんですけど、やがてキャメラが中に入ってキャメラが上へあがって、上からずーっと3人か4人がトランプしている所を上から撮るんですね。その時に牧師のおばさんがおって、
「昨日、変な人が来ましたね。あの夫人は何ですか?」と言うとそこの宿の主人が「あれはな、サディと言ってね、ハワイで悪い悪い女でな、追放されたんだよ。今ほいでこっちやって来たんだよ。」「あら、その人お金持っているの?」「うん、靴下の中にね、100ドル札いっぱいもってるの、あいつ。そんなんだから泊めたんだ。」「そう?その他、荷物無いの?」「うん、何も無いの。レコード一つ持ってるの。」「レコードと、そうそう片っぽウイスキー持ってるの。」「へえー、で、どうしているの?」「今、寝ているんだよ。あれ、起きたらね一杯飲んですぐにね、そのレコードかけるの。」「どんなレコード?」「セント・ルイス・ブルース、あれかけるの。」「へえー嫌な女だね。」
と言っているとセント・ルイス・ブルースの音が微かに微かに聞えてくるのね。ずーっとキャメラがそっち行って、そうしてだんだんだんだん音が大きくなるの。だんだんだんだん音が大きくなって、ドアの前でセント・ルイス・ブルースの大きな大きなメロディが聞こえた所で、バーっとドアが開いて片一方の手、凄い手、ブレスレットいっぱいつけてる。また片一方の手、それも凄い。今度脚が写る、ハイヒールの。首にも鎖つけている。それがパーっと全身出てきたらサディ・トンプソン、ジョーン・クロフォード。
という訳で、これは有名な有名な見事な映画テクニック。けどこのラストシーンも良かった。みなさん、ご覧になったらサディ・トンプソンこの『雨』がどんな立派な映画か、サディと言う女がどんないい役か、実は怖い女だけど、どんないい役かがおわかりになると思いますよ。

【解説:淀川長治】