
チャップリンの『ヴェニスにおける子供自動車競争』『成功争ひ』、そういう風な作品を今御覧になるのは本当に珍しい事ですよ。チャップリンが映画界に入って初めての映画ですよ。チャップリンは舞台の人、カルノ一座の人。だから映画に出るのは本当に初めてなんですね。けど、チャップリンいう人は非常に小策いうのか、自分というものを売りたくて売りたくて、人を押し退けても自分はやりたいような根性があったんですね、早くから。イギリス人ですけど、アメリカへ来て『成功争ひ』とかやりました。『ヴェニスにおける子供自動車競争』やりました。ベニスいうからどういうベニスか思うけど、これはロサンゼルスのハリウッドの近くにベニスいう名前の海岸があったんですね、そこでの自動車競争なんですね。で、自動車競争は主役でドタバタなんですけど、チャップリンはそれに出たんですね。出た時にチャップリンはドジョウ髭生やしてました、長い髭。そうしてカッコ悪かったのね。チャップリンは「これではイカん」思って、自分の楽屋で人の髭取っちゃったんですね。付けるやつを。で、人の靴履いたんですね、人のステッキとったんですね、全部。それでチャップリンの様子がすっかり変ったんですね、監督びっくりしたんですね。「なんだ、おまえ」と言いましたけど、チャップリンがおもしろいから許したんですね。チャップリンは、勝手に人の靴履いて、勝手に人の髭付けて、勝手に人のズボンみたいの着て有名になったんですね。チャップリンは本当に、この自分というものを売りたがる人なんですね。チャップリンはあのステッキ持ってますね。あのステッキも実はカルノ一座におった時には、ずっとこうもり傘だったんですね。こうもり傘の柄で人をひきずったり、自分がこうもり傘を持ってると、すべってひっくり返ったりする。それを今度はハリウッドに来てやろう思ったら怒られたんですね。ハリウッドは雨降らないからこうもり傘なんか困りますよ、言われたんで、困ったな、困ったな思った。それでステッキ持ったんですね。そういう風に、いつでも何か自分というものを認めてもらいたい、自分を注意してもらいたいと苦心する人ですね。で、そのステッキも、なるべくしなるやつ、なんか、まぁるくしなるやつ、バネのあるやつを使いたいので、それがアメリカにないので困ったんですね。それが日本にあるので、日本に沢山沢山注文したんですね。というような事があって、チャップリンの、あのステッキも、実はこうもり傘から変ってきたんですね。