CYNARA

シナラ

原題: CYNARA
監督: キング・ヴィダー
キャスト: ロナルド・コールマン/ケイ・フランシス
製作年: 1932年
製作国: アメリカ

『シナラ』、面白い名前ですね。キング・ヴィダーの代表的名作です。これはロナルド・コールマン、ケイ・フランシスの、フェリス・バリー、この3人の見事な作品です。

私は映画会社の宣伝部に居りました時に『シナラ』いうのを電報で一行だけ書いてきたんですね。何だろう?『シナラ』、キング・ヴィダー何だろう?わからなかったのね、このね『シナラ』の意味が。どんな映画なんだろう?『CYNARA』なんですね。どうもこの映画『CYNARA』おかしいな、ひょっとしたらこれは“サイナラ”かもわからない。と思って、ああ日本の映画かもわからない。そんな事考えたんですね。

そうしてやがてひと月半、ふた月位たってから、これ完成して日本に送って来て試写で観た時にびっくりしたんですね。『シナラ』とはこんなのか、『シナラ』はギリシャの古典の神様で、『シナラ』言う神様は女の神様、非常に悪い神様なんですね。悪い神様かどうか知らないけど、結婚したての、あるいは恋愛中のその男女の間にスーっと入って来て二人を喧嘩させるんですね。そうして又、最後におさめて逃げて行く神様なんです、『シナラ』言うのは。

そういう映画だ、そういう神様の題名なのかってだんだんわかってきたんですね。で、これはロンドンの話なんですね。キング・ヴィダーあの有名な『涙の船歌』それから『ビック・パレード』もう沢山沢山、『街の風景』などキング・ヴィダーの名品が有りますけど、『シナラ』は最高ですね。これはロンドンの話でアメリカで作りましたけれども非常に上品な映画で、あのロナウド・コールマンが、奥さんのケイ・フランシスが一週間休暇で里へ帰る。で、一人で喫茶店行ったんですね。で、居りますと女の子がキャーと言って嬉しそうなんですね。はーあんな若い時もあるんだなと思っていると一人がこっちを向いたから、「ねえ、あんたがた何を喜んでいるの?」「あたい達チャップリン観に行くんだよ。」と言っているのね。「そんなに嬉しいの?そしたら、おじさんが切符買ってあげる。」と言ったらキャーと喜んだんですね。それからその中の一人の女の子と中年のロナルド・コールマンとが、毎日、毎日、毎日会う様になったんですね。「おじさん、おじさん、会ってね、会ってね、おじさんとお話するのが好きなんだよ。」それだけで毎日会わされたんですね。毎日会わされている間にだんだん好きになっていってどうなるか?これは最後なんとも知れんラストシーン、凄いですね。

という訳でケイ・フランシスの上品なのとコールマンの上品なのと、フェリス・バリー綺麗な綺麗な女の子、この女の子とこの作品が名作になりましたね。『シナラ』は見事な恋の映画ですね。という訳でキング・ヴィダーの代表作品です。キング・ヴィダーは色々『街の風景』だとか、それから『ハレルヤ』とか色々ありますけど『シナラ』は代表作品です。で私はこの『シナラ』をサイナラと呼んだ事を今思い出して笑いましたけれども、『シナラ』は笑う映画ではありません、そう見事な情緒たっぷりと言うのか、本当の恋の愛の映画でしたよ。

【解説:淀川長治】